狩猟(巷説)

□現代版《温泉に行こうっ》1
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「何なんだよ」
 余りの急変振りに、田所が首を捻れば。
「早く仕事を終わらせましょうね、と言っただけですよ」
 兄の仕事振りを惚れ惚れと眺めながら、百介は簡単そうに言うが。
「言っただけ、ね」
「ええ。だって仕事が残っていたら、一緒に旅行に行けないじゃないですか」
「あ……」
 あ、である。
 田所刑事、開いた口が塞がらなくなった。
「兄上も有給休暇が残ってるそうですから、温泉でゆっくりと鋭気を養って戴きましょう」
 そうだよな〜。
 その間は、俺も休暇を取ってノンビリしようか。
 田所が呟く。
 が、事態は既に転がり初めていた。
「おう、田所も一緒に来い。良い温泉宿だそうだぞ〜」
 やたらと機嫌の良くなった軍八郎が、田所のクビにギロチンを落とす。
「俺は家の風呂で十分だあっ」
「序でだからなぁ〜、貴様の分の有休も申請しといたぞ〜。俺と一緒に酒を酌み交わそうぞ」
「俺を巻き込むなーっ」
 喚く田所の言い分なんぞ、山岡兄弟は聞いちゃいなかった。
「とても良い案です、兄上」
「そうだろう、そうだろう(あのヤクザ上がりと百介を二人っきりになぞ、絶対にさせるものかっ)」
「賑やかで楽しい旅行になりそうですね」
 和やかな兄弟と比べ、仁王様も負ける形相になった者が、約一名。
「それだけで済むモンかっ。俺はイ〜ヤ〜ダ〜っ!」
 田所真兵衛刑事の受難は、……続く。




 2007.10.22 -END-
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