狩猟2(リクエスト)

□キリバン8000リクエスト
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《ファイトだ、田所》

「ストーカー、だとぅっ?」
 何処の馬鹿だ、そいつァ
 寄りに依って、鬼の山岡検事の実弟にして、闇の探偵・又市の恋人であり、古今東西の妖怪共がバックに付いてる(某大手新聞社の社主やら、大物総会屋の元締だのという現代の妖怪達までも加えると、ある意味最凶)てー噂の、あのっ、山岡百介に。
 ストーカーだァ?
「自殺願望者じゃねぇのか」
 通勤退勤とかに後を付けて回ったり、手紙やメールを送り続けたり、住居不法侵入したりとかする、変態のことだよなストーカーって。
 我が耳を疑うってヤツだ。
 無論、そんな相談が山岡検事に持ち掛けられた時点で、盗撮や盗聴、脅迫なんて事件性を考えなきゃならないだろうが。
 そう言えば、青筋立ててる山岡軍八郎検事が、俺の疑問形をどう取ったのか、フッフッフッ、と不気味な笑いを零す。
「その不埒者の正体は、既に又市が暴いた」
 百介の自宅のテナントビル内はおろか、大学の研究室内部まで。
 盗聴盗撮のプロを連れて行った又市が、全ての器材を撤去回収し破壊したそうだ。
 ついでに、使われていた周波数から、キャンパス内の受信装置を持つ、ストーカーの割り出しに成功したらしい。
 そこまで証拠固めて容疑者も特定してるなら、警察機構に属する俺に直ぐさま情報をくれればよいのに。
 すぐに逮捕だ、と俺が職業意識に燃えて拳握れば、山岡検事は『そうもいかん』と苦々しく首を横に振る。
「又市の報告だと、盗聴器を仕掛けているのは、どうも一人ではないらしい」
 は?複数犯か?
 又市の事務所がある塒のほうにゃ、仕掛けられなかった(したら人生後悔する目に遭うだろうよ)ので、百介がいる大学の研究室って訳か。
「大学内部者のようだな」
 学生の方は又市の指示でおぎんが始末したらしい、と山岡検事が幾分表情を和らげる。
 何をした、とは聞けない。余りにも怖い想像になってしまう。
「……で、闇から闇に消せって訳じゃねーな
 ついつい不安に駆られた俺が確認したところ、『無論そんな真似はしない』とブラコン検事は重々しく頷いた。
「市中引回しの上で打ち首獄門、大学講道館前で晒し首にしてくれんっ」
「そっちかああーっ
 俺は、頭をかきむしった。



「別に、害はないようです」
 ……いや、ないって……お前、な
 のほほん、とした物言いで、ストーカー被害者である筈の山岡百介は、俺に茶を入れてくれた。
 百介が勤めてる大学の研究室で、今回ばかりは俺・田所真兵衛の本職である刑事としての聞き込みをしているのだ。
 俺の前にあるスチール製の椅子に腰をおろし、百介は『何から話ましょうか』と実に協力的だ。
 こりゃ思ったよりも早く解決出来るかな、と俺は手帳を胸ポケットから取り出した。
「ストーカー被害に気付いたのは、いつ頃からだ?」
「いえ、気付いたのは私ではなく、助手をしてくれてるおぎんさんです」
「あ?」
 手帳に聞き取り内容を書き込んでいた、俺の手が止まった。
「いや、被害者はお前じゃないのか?」
「私のようなのです」
 訳判らないな。
 俺の疑問符に、百介も少し困った顔で。
「その、私の使ってる鉛筆や消しゴムが、この研究室から消えてることが続きまして」
 と、三月前の出来ごとから話し出した。
「ふむ。それで?」
「記憶違いか、置き忘れか、と思っていましたら。次に茶碗やコーヒーカップが消えていくんですよ」
「備品泥棒だろう?」
「それが、その私が使ったものが、洗う前にテーブルからなくなって」
 百介が飲み物に口を付けて、少し部屋を出た時に、机の上のカップや湯飲みがなくなっていたのだ、という。
 最初は、おぎんか誰かが気を使ってカップを片付けてくれたのか、と百介は思っていたそうだが。
 次にゴミ箱が漁られるようになり、おぎんが『これはストーカーの仕業だ』と騒ぎ出したのだ、ということを百介は順々に話してくれた。
 しかし、ゴミ箱漁り?何を持ってってるんだ、そのアホは。
 はあ?捨てた缶コーヒーや、ペットボトル。洟かんだ後に丸めて捨てた、ティッシュまでかよ〜
 考えると、気持ち悪くなるな
 気分を切り換えようと、少し温くなった茶を一口飲んだ俺は、その美味さに目を見張る。
「随分と良い茶葉だな」
 大学の備品じゃなさそうだし、百介の私物かと思っていたら。
「その、ストーカーさんからの差し入れ品です」
 ぶぼっっ
 俺は飲んでいた茶を吹き出した。
 何ナニ、なんだとぅっ?
「百介、何考えてるんだっ
 はっ、まさか毒っ毒でも入ってるんじゃねーのか?俺ァ毒味役かっ。
「嫌だよぅ、田所の旦那ァ」
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