狩猟2(リクエスト)

□キスのお題
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《キスのお題A》


「よっしゃあ〜!妾の勝ちだよぅっ」
「あ、あの、これ、私が負けたんですか?負けなんですか?」


  額の上なら…


 どわあっ、と一気に場が騒がしくなった。
 散らばった花札と、貧乏徳利に欠け茶碗が転がり。
 その回りに輪を組むように座る、小悪党ズと考物の百介先生。
 最初は治平や徳次郎達が酒を喰らいながら始めた花札博打に、おぎんと又市が乗り、興味津々の百介先生が引きずりこまれての数勝負。
 もとより花札なる賭博は全く無知の分野で、ルールも怪しい百介が、一人ボロ負けな結果。
 まあ、仲間内の戯れ事だ。
 賭け花札といっても法外な金銭を賭けている訳ではないので、又市も苦笑を浮かべてカモにした百介をからかっていた。
 百介が相手なら、おぎんも『酒を奢れ』か『甘味でもご馳走しろ』位の要求だろう、と又市もタカを括っていたのだが。
「さぁ先生ェ、負けちまったんだから妾の言うこと、何でも聞いてもらうよぅ」
 おぎん、目を光らせて舌舐めずりする山猫のごとく、百介に詰め寄った。
「は?え、何を、でしょうか」
 キョトン、とおぎんを見返す百介。
「おい、おぎ……げぶっっ」
『何を言い出しやがる』と、助け舟に身を乗り出した又市は、すかさず治平と徳次郎の手で畳に押さえ付けられ、御丁寧に縛り上げられて猿轡まで噛まされた。
「あああ、又市さ〜ん」
「又さんは放っといて。んふふふぅ〜ん。先生ェ、負けは負けだからねぇ」
 おぎん、ニッタリと笑うと、何が何やらサッパリ訳が判らない百介の肩に、ポンッと両手を置いた。
「お、おお、おぎんさん?」
「先生ェ、目ェ閉じておくれよぅ」
 おぎんが、グッと顔を寄せて言った言葉に、百介は素直に従った。
 そんな百介の可愛い素直さに笑みを浮かべ、おぎんは顔を更に寄せる。
 治平と徳次郎は、若い男女二人のやり取りを面白そうにニヤニヤ笑いながら見物しているが、蓑虫にされて転がされた又市は笑うどころではないっ。
『せっ先生ェ〜っ。』
 猿轡のせいでモガフガと意味不明なことを喚きながら、ジタバタと足掻いている。
 又市のジレンマ騒ぎを余所に、おぎんは息も触れ合うような間近で、百介をジックリと見ることが出来て、かなりのところ感動していた。
『あれ先生ェったら、ほんに色が白いし肌もきめ細かいし、睫毛も長くて…鼻の形も可愛いし、なにサ此の奮い付きたくなるよーな唇ったら。』
 花のような顔、とはおぎんだとて良く言われるが、百介の可憐さとはまた別次元の話。
 本当にこうしてマジマジと見ても、男にしておくのが勿体ない位の整った顔なのだから。
 常日頃から野暮天のナンノと自分で自己評価するくらいに、流行にはトンと疎い若隠居。
『こ、これで少しは流行の着物柄を着るとか、話題の小物を身につけるとかしたら。』
 さぞや照り映える様な男振りだろうに、と。
 おぎんの嘆きは一入だ。
 そうして暫しの間、たっぷりジックリむっちりと、百介の顔を眺め尽くしてから。
 おぎんは、許しが出るまではとジッと目を閉じて待っている百介の、白い富士額に。

 チュッ。

 音を立てて、朱い唇を触れさせた。

『ぎぃやあああっっ』
 又市は目を見開き硬直!!
「おおっ。」
「やったねぇ、おぎんちゃんっ。」
 治平と徳次郎は、手を叩き歓声を上げ。
「あ、えっ」
 額を手で押さえた百介は、何をされたか理解すると、ボッと耳まで赤くなって恥じらい、俯いた。


 額の上なら友情のキス。


「うふふふぅ〜ん。どーだぇ先生ェ」
 勝ち誇ったおぎんは、瞳をキラキラさせて、『してやったりぃ』と百介の顔を覗き込む。
「うぅ……もう一勝負っ」
 真っ赤な顔をしたまま、百介は『やられっ放しは癪だ』と再戦を要求!
 猿轡を外された又市が、ぎゃんぎゃんとおぎんに噛み付き、おぎんも負けじと舌戦応戦。
 いつもの顰っ面はどこへやら、愉快そうにニヤニヤ笑いながら治平は花札を集め直し、徳次郎は再び場に皆を呼びこんだ。
「さぁ、も一丁いくかぃ?」



-END-
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