ハッピー・バード☆
□第六章 鐘を鳴らそう
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1.間に合った!
「茅ちゃん先輩〜!浜野からの荷物、届きました!」
夜のルチル・ジュエリー社中。宅急便の到着に、受付嬢の寺崎愛が叫んだ。
浜野が探し歩いた宝石の数々がひと足早く、でもやっと、茅子の手元に届いた。
まずは、優しい村の村長さんが譲ってくれた、淡い色合いのラベンダー翡翠。
星野骨董店からの、息を飲むような紫紺の美しいスギライト。
キラキラ光る硝子の交じった、薔薇輝石と天河石。
あとは質のいい水晶とシトリン、濃いトパーズ。
どれも予想以上の質の良さに、茅子は驚きと感動を覚えた。
自分は上質のラリマーとターコイズ、この2つを揃えるにも必死だった。
なのに、浜野は同じ時間に、これほど素晴らしい品々を集めたのだ。彼は、本当にすごい。
もとから店に蓄積していた質のいいエメラルドとカヤナイトは。すでにあのヤバメな銀細工師に預けてある。
こちらの方は、茅子の部下である寺崎愛がお気に入りの変態?さんだが、いわゆる天才さんだ。寺崎愛が泊りに行っていた間に銀細工は加工済みだ。
本日の夜中までにエメラルドとカヤナイトを嵌め込み、ルチル・ジュエリー社に届けに来る約束だったが…。
リリリリ…。寺崎の携帯が、絶妙なタイミングで鳴った。
「か、茅ちゃん先輩…」
「何?叶さんから?」
「はい…。約束の品が出来上がったんですが…私に迎えに来いと…私行きますね今から支度します!」
「あら、大丈夫?」
「へ、平気です!あの衣装着るのはちょっと恥ずかしいけど……時間ないですから!早くティアラ完成させないと」
「ごめんね無理させて……じゃあ…お願いね」
「いいえ、気にしないで下さい。こんなこともあろうかとっ」
スルッと。脱いだコートの下は、ゴシックロリータのメイド衣装である。案外、愛ちゃん気に入ってるのかな…?と茅子は思った。
「あ…そうなんだ…ありがとう…頑張ってね」
「いえっさー☆」
やけに凛々しい敬礼を残し、寺崎は車庫に消えた…。
というわけで。
社内は茅子だけになってしまった。
クスクス……。
人外の笑い声。
それまで身を消していた、ラピスが姿を現した。
ふわりと茅子の肩を包む。
「面白い女の子だね、カヤナイトの部下。」
「いい子なんだから、そんなふうに言わないの」
「はいはい…クスクス」
「ラ〜ピ〜ス〜?」
「ごめんごめん、機嫌なおして。」
………チュ、と。
この精霊は簡単に、キスをする。おかげで茅子はいつも顔が熱くなって仕方ない。
他人には姿は見えなくても。茅子にはしっかり見えているのだから。