ハッピー・バード☆

□第六章 鐘を鳴らそう
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 銀細工師から届いた二対のティアラの原型は、まさしく天才的な芸術品だった。

 女性の方は、海の波を形作った繊細なフォルム。全体にも、さざ波やテーブル珊瑚、躍動感のある大小の魚の群れがある。

ゆれる海藻のまわりには、立ち昇る細かな泡の模様が掘り込まれていた。

 男性の方は、大樹の幹をイメージしたようなフォルム。風にそよぐ枝葉がたくさん茂り、その中に鳥や小動物が憩う。大地には麦の穂や花、果物がある。

よく見ると小さな卵の入った鳥の巣まで掘り込まれていた。

どちらも、何時間見ていても飽きないような、ストーリー性のある仕上がりだ。

海の幸=女性=生命力や細やかさ、山の幸=男性=豊かさや見守る強さ、というイスキア公国の文化も、見事に表現されている。

茅子の注文どおり、カヤナイトとエメラルドのラインが一番下を締めくくり、重厚な雰囲気も出ている。

あとは残りの宝石がはめ込まれるを待つのみだ。

これを三日で仕上げたなんて、とても信じられない。通常なら半年、いや一年、それ以上の年月をかける代物だろう。

だが。こうして現実に目の前にある。素晴らしい才能の持ち主に出会えたこと、そして、ルチル・ジュエリーにそれをもたらした、あの可愛い受付嬢には、今後は枕をむけては眠れない、と茅子は思った。
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