たえとの短編集☆
□御伽夜話(おとぎよばなし)〜幻想の宴
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音を奏でていると、頭の芯がしびれ、気が遠退く感覚がする。
だめだ。思考を明晰にしていないと、逃げ出せない。
身体をすぐ動かせるようにしておかなければ。
音を奏でながら、私は自分のことを思い出す。
どこから思い出せばよいのか、はっきり分からないのだが。
たしか、私は山育ちのじゃじゃ馬で、小さな頃から野性の馬に乗り、毎日野山を駆け巡って暮していたはずだ。
ある時、貿易商の父が、遠い異国の長旅から、お帰りになった。一人の若い男と、その供の集団を連れて。
父は、彼を私の許婚にした。聡明な彼に、私もいつしか惹かれていった。
昨日の晩はたしか、婚礼の儀を兼ねて、皆で杯を交わし、それは楽しく騒ぎ、食べ、飲んだ。
そのうち、皆は酒がまわり、あちこちで寝転がった。
いきなり、私だけが起こされ、猿轡に縄で縛られ、外に連れ出された。
皆、気付かなかった。
父母は、親族は皆は、あの後一体、どうしただろう。
許婚の異国男が、妖しい顔つきで、猿轡を外した。
「なにをする!」
「ふ、お前はもう私の物。私の花嫁よ。」
「ならば尚更、このような振る舞いは、やめてくれないか」
「は、バカを言うな。お前はもう私の花嫁なのだぞ。新しい花嫁は、婿の犠牲になるものだ……」
異国の男は、詐欺師だった。人のいい父は、騙されていたのだ。
聡明な実業家の一族だと信じていた許婚と、その供の集団は。
本当はとんでもない思想・風習を持つ、恐ろしい集団であった。
長となる男の、身の安全ために、定期的に女を花嫁に仕立てあげ、殺し、海に捧げるというのが、彼らの風習だった。
一度、縄を切り逃げたが、輩どもの力と太刀にかなわず、再び捕えられてしまった。
逃げたい。
生きたい。
このまま死ぬのはいやだ。
そう考えていると、折りよくも、この船に賊が入った。たくさんの物と人間が、入り交じった。
そのさなかで、海老色の烏帽子に太刀を持つ人間が、私を攫い、別の船に移した。
そいつは人買いだった。
私は、焼き印を押され、人買いに引き渡された。
それで。
気が付くと、このバカでかい池の上に吊されていたのだった。
…………そうだった。