たえとの短編集☆

□御伽夜話(おとぎよばなし)〜幻想の宴
2ページ/11ページ

 音を奏でていると、頭の芯がしびれ、気が遠退く感覚がする。
 
だめだ。思考を明晰にしていないと、逃げ出せない。

身体をすぐ動かせるようにしておかなければ。

音を奏でながら、私は自分のことを思い出す。

 どこから思い出せばよいのか、はっきり分からないのだが。

 たしか、私は山育ちのじゃじゃ馬で、小さな頃から野性の馬に乗り、毎日野山を駆け巡って暮していたはずだ。

ある時、貿易商の父が、遠い異国の長旅から、お帰りになった。一人の若い男と、その供の集団を連れて。

父は、彼を私の許婚にした。聡明な彼に、私もいつしか惹かれていった。

 昨日の晩はたしか、婚礼の儀を兼ねて、皆で杯を交わし、それは楽しく騒ぎ、食べ、飲んだ。

そのうち、皆は酒がまわり、あちこちで寝転がった。

いきなり、私だけが起こされ、猿轡に縄で縛られ、外に連れ出された。 

皆、気付かなかった。 
父母は、親族は皆は、あの後一体、どうしただろう。

 許婚の異国男が、妖しい顔つきで、猿轡を外した。
 
「なにをする!」

「ふ、お前はもう私の物。私の花嫁よ。」

「ならば尚更、このような振る舞いは、やめてくれないか」

「は、バカを言うな。お前はもう私の花嫁なのだぞ。新しい花嫁は、婿の犠牲になるものだ……」

異国の男は、詐欺師だった。人のいい父は、騙されていたのだ。

聡明な実業家の一族だと信じていた許婚と、その供の集団は。

本当はとんでもない思想・風習を持つ、恐ろしい集団であった。

長となる男の、身の安全ために、定期的に女を花嫁に仕立てあげ、殺し、海に捧げるというのが、彼らの風習だった。

一度、縄を切り逃げたが、輩どもの力と太刀にかなわず、再び捕えられてしまった。

逃げたい。
生きたい。
このまま死ぬのはいやだ。

そう考えていると、折りよくも、この船に賊が入った。たくさんの物と人間が、入り交じった。

そのさなかで、海老色の烏帽子に太刀を持つ人間が、私を攫い、別の船に移した。

そいつは人買いだった。
私は、焼き印を押され、人買いに引き渡された。

それで。
気が付くと、このバカでかい池の上に吊されていたのだった。


…………そうだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ