たえとの短編集☆

□御伽夜話(おとぎよばなし)〜幻想の宴
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 たまに使用人が、小さな船でこの鳥かごを周った。

ドサリ、と。音楽の止まった鳥かごは、内部で娘が崩れ落ちている。それを、使用人達が回収している。

あとから暴れだす娘には、容赦なく殴り付けて沈めるか、太刀で突いている。

それから別の使用人が、銀色の水差しから、音を奏でている娘たちの口に、何かを含ませて周っている。

娘たちは、とろける様な顔になる。中にはおかしな声をあげる者。

私の番が来た。

甘い。
トロリとした水蜜だ。私達の食事はこれしかないらしい。

だが、私は口の中に毒気を感じた。直感でわかる。これには、なにか変な薬が混ざっている、と。

とっさに、使用人の顔に吹き付けてやった。

彼はヒィ、と叫びながら去った。太刀は持っていなかったようだった。

二、三日なら何ということはない。そのうちに、かたをつけてやる。 

 さて。
逃げだすには、人目を引かなければならないようだ。誰よりも美しい演奏で。

あの使用人の様に油断させ、近寄らせるしかない。

まずは目を閉じ、耳を澄ませ、まわりの音を聴く。

頭のおかしな娘たちにしては、たしかに美しい調べが流れている。

だが、途中で止まったり、高音だけが飛び出たりと、バラバラで統一性がない。 

決定的に、低音が欠けている。

まるで骨のない馬だ。フワフワと幽霊のように、足取りが不安定きわまりない。

よし、ならば私が低い音色で骨を創りだしてやる。低い調べは鼓動となり、やがて筋肉となろう。 

指先に集中して、糸を弾く。竪琴と同じ要領だ。
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