のべる3

□夏祭りと林檎飴と初恋
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「ねぇ裕太。…裕太?あれ?由美子姉さん?」

小学一年生の夏休み。不二一家は観光目的で大阪に来ていた。

旅行は二泊三日で、初日の夜にホテルの近くに夏祭りがあり、姉の由美子と弟の裕太と三人でその祭りへ来ていたのだ。

しかし、祭りで気分が高揚していた周助は、早足でどんどん前へ前へと進み、気がついた時にはもう遅く、二人は後ろにいなかった。


「どうしよう…迷子になっちゃった」

さっきまでの楽しい気持ちが一気に下降する。
迷子センターのような所に行かなければと思ったが、その場所もわからず、自力で捜すには人が多過ぎる。

人混みの中、孤独感が込み上げてきて、不覚にも涙が溢れた。


「う…ふぇ…」

大粒の涙が頬を流れた時、


「どないしたん?」

一人の少年の声が聞こえた。


「え?えっと…」

泣き顔を隠すように周助は慌てて涙を拭く。

周助に話しかけてきた少年は、同い年くらいで話し言葉から地元の子だというのがわかった。


「もしかして迷子なん?そら心細かったな」

少年は迷子の周助を馬鹿せず、優しくポンポンと頭を撫でた。


「俺も捜したるから、もうちょい我慢やで。安心しぃや。絶対見つけるからな」

「…うん!」

一人ぼっちだった周助にとって、その少年の存在はとても心強いものとなった。


「あ…それ…」

落ち着きを取り戻した周助は、少年が手に持っているものに気がついた。


「ん?ああ、この林檎飴のことか?さっき出店で買ったんや」

周助が迷子になった原因の一つは林檎飴だ。林檎飴が食べたくて、その出店に早く行こうとして迷子になってしまったのだ。


「食べたいんやったらあげるで」

「そ、そんな悪いよ!」

少年の持っている林檎飴を見て正直欲しいと思ったが、姉と弟を捜してもらってるのに、物を貰うなんてさすがに気が引ける。


(そりゃ欲しいしお腹空いてるけど…でもこれ以上、迷惑かけたくない)

「……」

少年はそんな周助の様子をじっと見て、少し考えてから言った。


「いらんやったら捨てるしかないな」

「え!?」

「俺、大きい方の林檎飴買うてしもたんや。食べ切れる思たんやけど、無理っぽいわ。せやけど捨てるのも勿体ないやろ?」

スッと林檎飴を周助の方に差し出した。


「やから貰ってくれへん?」

「それなら…貰うね」

少年の気遣いと優しさに触れ、周助は暖かい気持ちになり、自然と笑みがこぼれた。
不二は林檎飴に口をつけた。


「お、おん!」

少年は照れ臭いのか、周助から目を軽く離した。

「何?」

「や、食べかけやったから…その…」

しどろもどろで答える少年。
周助は少年の言いたいことがわかり、顔を林檎飴のように真っ赤にする。


「あ…あの人、キミのお姉さんやない?」

「由美子姉さん!?」

少年の視線の先には確かに姉がいた。傍には周助がいなくて寂しくて泣いている弟がいた。
姉は周助に気づき、二人の元に向かった。


「ほな、俺ももう戻るわ」

「待って!」

(まだお礼言ってない…!)

少年は周助の呼びかけに足を止めた。


「ありがと!慰めてくれて、一緒に捜してくれて、それから…林檎飴もありがとうっ!」

少年は優しく笑った。


「またな」

少年の背中を見つめながら思った。


(また…会えたらいいな)

夜空に瞬く流れ星に、強く願った。
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