戦争の恋歌

□『戦争の恋歌』第一弾・後編
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縁側に座ったまま、牧子さんは震える事しかしていない。

儂は喜んでくれると思っておったのに・・・怒られる理由が理解出来なかった。

「如何してと言いたいのは儂の方じゃ、喜んでくれると思ったのに・・・」

それは先週に遡る。

『我が校でも少年航空兵を募集する事となった。
志願する者は放課後、この用紙を取りに来い!』

儂が通う学校でも少年航空兵の志願を募っていた。

まだ兵役義務の無い儂らにも募集が来たと言う事は相当戦局は悪化している事を物語っている。

日本人も朝鮮人も関係無いもんだから迷い無く、志願を決意した。

何より、日本も各地で空襲を受けている。

この国に居る牧子さんの為にも・・・なのに

「アンタは日本人じゃないのに・・・何もこの国の為に死ぬ義理は無いじゃろ・・・」

露骨に悲しんでいた。

牧子さんが居なければ・・・母さんと姉さんを辱めて殺した連中の居る国の為に誰が・・・

それに、兵隊さんに取られれば皆が旗を振って大喜びするのに・・・彼女は全然喜んでくれない。

「儂は・・・」

口を開けば涙で頬を濡らす牧子さんが顔を上げる。

「儂は・・・何?」

泣いているのに激しい形相をしながら胸倉を掴んでいるその手を振り払い

「・・・貴方を、守りたい」

小声で呟いた。
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