短い文章
□俺はまた、嘘を重ねる
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BL
幼少期剣城兄弟
「キスすると治りが早いらしいよ」
それは以前暇を持て余した俺が、たまたまテレビで知った情報。
「なら俺が兄さんを治してあげる!」
そう言って京介は俺の唇に自分のそれを寄せた。
寄せた、なんてそんなロマンスがあるようなものじゃない。
これはもう押し付けたと言ってもいい。
驚いて京介を見つめれば頬に朱を滲ませていた。
キスという行為がどういうものか全く知らない子供と言う訳ではないらしい。
俺が知らない間にいつ覚えたんだ。
誰彼構わずしているならば俺はすごく悲しいし、腹立たしい。
ちゃんとしつけし直さなければいけない。
「早く治るといいね!兄さん」
俺の足が治らないと告げられたのにも関わらず、俺の言う治る(きっと京介は違う意味で捉えている)を信じている。
キスを知っているからと言っても最近の子供はマセていると聞くが、実際京介は幼い。
まぁ、そう言う俺もまだまだ子供なんだけどね。
幼いが故に目の前に提示された希望にすがり、正しい情報の判断がつかないんだ(いや、それは誰でも目の前に希望があればそれにすがるに違いない。藁にもすがる思いというのはまさにこれの事だ)。
それとも…、俺を信用しているが故に医者を信用しないつもりなのかもしれない。
それはそれで嬉しいけれども。
「ありがとう、京介」
キスで治ると言うのは風邪等のウィルスによるもので、それは口内のバクテリアの交換によって免疫力が高まり、回復が早まると言われている訳で、俺のような外傷が治る訳じゃない。
それを今更言うのは気が引けてきた。
暫く黙っておこう。
もしキスで治るならきっと父さんや母さんは俺に気持ち悪いくらいにキスするに違いない。
それはもう唇が真っ赤に腫れあがるほどにだ。
「京介、他の人にはキスしちゃダメだよ」
「どうして?」
「他の人にキスしたら俺が治らなくなるから」
嘘だ。
こんなのはただのくだらない独占欲だ。
そうやって京介を縛って…。
俺は何をしているんだろう。
嘘を吐かなくたって京介はきっと俺の傍にいてくれるのに。
これは自惚れじゃない、生まれた時からずっと京介と一緒にいたから分かる。
京介は優しい奴だから。
「二人だけの秘密な」
「うん!」
俺はまた、嘘を重ねる
(俺はいくつ京介に嘘を吐くんだろう。)
(嘘と知った京介はきっと…、)
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