短い文章
□キスで潤おして
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「冬は嫌いだよ」
ポツリと彼女の口から出た言葉はあまりにも小さくて、冬の風に掻き消されてしまった。
「は?」
「冬は嫌い」
もう一度唇から洩れた声は先程よりも大きく、聞き取る事が出来た。
「なんだよ、急に」
明王は呆れた様な声を出し、彼女を見た。
「だって寒いじゃん」
「ならなんで外出て来たんだよ」
お前バカだろ、と明王は言った。
彼女は視線を泳がせた。
彼女が隠し事をしようとする時の癖だ。
「明王には関係ないじゃん」
彼女はプイッと顔を逸らし歩き出してしまった。
これもまた彼女の癖の一つだ。
構って欲しい時、彼女は必ず背を向ける。
2年という月日の中でいくつもの彼女を知った。
「俺は嫌いじゃねェよ...冬」
明王は後ろから彼女を抱きしめた。
「やだ、ここ通りっ、」
彼女は恥ずかしそうに身じろぎする。
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