短編小説

□夏の桜の下で
4ページ/5ページ


「ねぇ、祐希」
「何?」
「俺と付き合ってくれて、ありがとう」
「どうしたの、いきなり」
「んーん、何となく」
「そっか」


ジリジリと照りつける太陽が熱い。
でも、繋いだ手は離さない。
一哉に触れてるのが、たまらなく嬉しい。


「ねぇ、祐希」
「何?」
「俺たち、付き合って半年でようやく手を繋いだわけだけど、キスは何時できるのかな」
「……そのうちね。今はまだ、心の準備が出来てないから」
「うん。祐希が心の準備出来るまで、待ってる」
「ありがと」


そういえば、一哉と付き合い始めてから今日で半年立つ。
その間、手を繋ぐことさえ出来なかったんだと思うと、一哉に申し訳なかった。

でも、ずっと我慢していてくれた一哉の優しさが嬉しい。
今思えば、最初こそ我が儘を言うけれど、いつもあたしの気持ちを優先してくれた。


「一哉」
「ん?」
「あたし、頑張ってこの照れ性直す。だから、待ってて」
「無理しなくていいよ」
「ううん、もう決めたの」


真っ直ぐに一哉を見つめた。
一哉は目を丸くして、でも、すぐに笑いかけてくれた。


「そっか。祐希が決めたことなら、俺も応援するよ」


ぽん、と頭に手を置いて、よしよしと頭を撫でてくれた。


「でも、残念」
「何が?」
「祐希の照れた顔、可愛かったのにもう見れないのかぁ」
「……ばか」
「そう、その顔!可愛いよ」
「〜っ煩い!もう黙って!」


……照れ性が直るのは、かなり先のことになりそうだ。
ついでに一哉も、その口説き文句を言うのを直せばいいのに。

一哉の肩を軽くはたくと、一哉は大袈裟に痛がった。
そして、二人して笑い合う。

そんなあたしたちを、校門前の青々とした桜が眺めていた。



- end -

→あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ