短編小説

□夏の桜の下で
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カラン、と軽やかな音を立て、氷が揺れる。
氷が入った冷たい麦茶を入れたコップの表面には、これまた冷たい水滴がたくさん。
それの上からコップを掴めば、掌から肘へと水滴が流れ落ち、ポタリ、と床を濡らす。
そんなことなど気に止めず、ゴクゴクと喉を鳴らして麦茶を一気に飲む。


「あー、生き返ったぁ」


年頃の少女だとは思えないような声で言う。
手の甲で口元を拭い、コップの中に残っていた氷を口へ流し込んだ。
ガリガリ、と大きな音を立て、大きめの氷をすぐに平らげる。

氷を全て食べきると、寝間着を脱ぎ、ソファーに掛けてあった服に着替え始めた。
お気に入りの黒地に銀色でロゴの入った半袖のTシャツに黒色の半パン、七分丈の上着というラフな恰好。
彼氏とデートに行くのにその恰好はどうなの?って、お母さん言われたけど、服なんて動きやすいほうがいい。


「そろそろ行くとすっか」


机に立て掛けてあった大きめのショルダーバッグをひっつかむと、足下に落ちていた髪ゴムを器用に足で取る。
テーブルの上にあったトマトとハムをつまみ、髪を一つに束ねながら玄関に向かう。


「いってきまーす」


部屋で寝てる妹以外、誰もいないからしっかりと鍵をかける。
ヒールのついてないサンダルでアスファルトの上を駆けると、ぱたぱたといつもと違う音が小さく木霊した。


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