□BitterKiss
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いつもなら騒がしいギルドの中、ナツも共に一緒になって騒いでギルドの面々に喧嘩をふっかけている筈だった。
しかし、今日だけは違った。
朝からギルドに来たかと思えば、辺りを忙しなく瞳を動かして見回したり、どこかの席に座ったかと思えば立ち上がり、また座って。
そんな不可解な行動を繰り返すナツに気付いたルーシィが、未だに席を立ったり座ったりを繰り返しているナツに声を掛けた。


「どうしたの?ナツ、何かあったの?」


ルーシィからの声に、ナツは肩を大袈裟に揺らし、ぎこちなく振り返る。


「る、ルーシィ・・・か。はよ」

「おはよって、もう昼過ぎなんだけど」


呆れた溜め息をつくルーシィだが、ナツは気にした様子もなく、また辺りに目をやっては席につく。
様子のおかしいナツを訝しく思っていたルーシィだが、一つの仮定の答えに辿り着きナツを見やる。
ルーシィの予想通り、先程は気づかなかったが、ナツの手には恐らく手作りなのだろう。
不器用にリボンでラッピングされた箱が、ナツの手の中にあった。
ルーシィは内心、ほくそ笑むとナツの肩を叩いた。
瞬時に振り向いたナツの顔に、にんまりと意味ありげな笑みを見せる。


「誰かにあげるの?チョコ」


聞けばナツの顔が耳まで一瞬にして真っ赤に染めあがった。
ナツはすぐに顔にでるから、分かりやすい。
見ているこっちが恥ずかしい。


「べっ、別に誰かにあげるモンじゃあ」


ナツの言葉は、突如開かれたギルドの扉の音によって遮られ、最後までは続かなかった。
扉の音に反応し、ナツの身体が小さく跳ね、次に扉へと目をやる。
そこには今初めてギルドに来た人物が太陽の光を背に、綺麗な金髪を煌めかせギルドの出入り口の前にたっていた。
ルーシィも釣られて背後に振り向き、面倒そうに後頭部を掻きながらギルドに足を踏み入れる金髪の男を見つめ、ナツに視線を戻した。


「ふーん?」


ルーシィが楽しげに声を発せば、ナツは金髪の男からルーシィの笑顔が張り付けられている顔を見やり、眉を寄せた。


「なっ・・・なんだよ?」

「べっつにぃー?」


訝しむような視線を向けてくるナツの頭を優しく、ぽんぽんと叩いた後、ナツに小さく何か呟くと、ルーシィはミラジェーンの元へ足を向けた。

頑張ってね。

優しく、そしてどこか楽しげにそう囁いてきたルーシィの言葉が酷く頭の中に残り、渦になって何度も頭の中で回り続ける。
何をどう頑張れというのか。
まさか、自分が今手にしているチョコを誰かにあげる事、そしてその相手が誰なのかばれてしまったのだろうか。
不安にかられ、先程ミラジェーンの元へ歩いて行ったルーシィを見やる。


「・・・・ま、大丈夫か」


ルーシィ、意外に口固いし。

本人が聞いていたら、意外とは失礼だと、怒りそうな事を軽く心の中で思った後に、ナツは遠くで雷神衆と何やら話し合っている金髪の男、ラクサスを見やった。
ずっと見つめていれば、流石に気がついたのだろう、睨み付けるようなラクサスの金の瞳とかち合う。


「っ?!」


咄嗟に顔を逸らし、俯き、箱を握り締める手に力を込める。
滅竜魔法で発達している鼻と耳が、だんだんとこちらへ近付いてくる匂いと靴音を感じ取る。
箱を握り締める手が、小さく震えた。
不意に、ナツに影がかかり、ナツの周りだけが暗くなった。


「何か用か?」


低く、心地良い声がナツの鼓膜を震わす。
高鳴る鼓動と上がり出す体温。
ナツは俯いたまま、目を泳がせる。
何も言わず、こちらを見ようともしないナツにラクサスは軽く舌を打った。

先程から視線を感じていて、煩わしく思い視線を感じる先を見れば、ずっとこちらを何かを言いたげに見つめるナツと目が合った。
直ぐに顔を俯かせたナツに、ラクサスは疑問に思いながらも、何か用があったのかと、聞きに来てやったのだ。
しかしナツの失礼極まりない態度に、ラクサスは煩わしそうに溜め息をつくと、俯くナツを見下ろした。


「用がねぇんなら、人の事をジロジロと見てんじゃねーよ」


ラクサスの言葉にナツは小さく目を見開くと、下唇を噛み締めた。
分かっている。
普通、男に見つめられて喜ぶ男など、そうそう居ないだろう。(グレイを除いて)
ずっと自分を見つめられていた相手に、しかも男にチョコを渡されれば、ラクサスはどう思うだろうか。
気持ち悪い、と思うかもしれない。
不安とドキドキ感が胸の中で入り混じって、破裂寸前のナツだったが、ラクサスが次に発した言葉が破裂しそうだった頭の思考を停止させた。


「オレはもう戻るからな」


雷神衆の元に足を向け、歩きだそうとするラクサスの服の袖を、半ば無意識にナツはひっつかんだ。
動きかけていたラクサスの動きが止まる。


「ぁ、えっと・・・・」


自分の行動に驚いて、掴んでしまった自分の手を凝視するナツ。
今、絶対に自分の顔は茹で蛸の如く真っ赤だろう。
顔に熱が集中していくのが、嫌でも分かる。
ラクサスの行動を止められたはいいが、次はどうしたらいいのだろう。
何時までもラクサスの袖を掴んだまま、一人で焦るナツにラクサスは片手で顔を覆い溜め息をつく。


「なんなんだよ一体。うじうじしてねぇで言いたい事ははっきりと」

「ん!」


ラクサスが全てを言い終わる前に、持っていた箱を胸元に押し付ける。
突然の事に瞠目し、固まっていたラクサスだったが、箱を受け取った。
箱から仄かに感じる甘い匂い。
視線を箱からナツにずらせば、耳まで真っ赤にさせて俯く桜色の頭。
何かを察したラクサスは小さく鼻で笑うと、箱にラッピングされているリボンを解くと、蓋を開けた。


「手作りか」


一目見ただけで分かる歪な形をした丸い、掌サイズのチョコレート。
一つ掴み、口の中に放れば、口内を満たす甘みと、後から追うように感じる苦み。
ラクサスが甘いものを余り好かないと知っていて、ナツは敢えて苦めのチョコレートを使って作ったのだ。
ラクサスは俯き続けている桜色の頭に手を乗せ、優しい手つきで撫でると頬を緩ませた。


「まぁまぁだ」


感想を述べるラクサスの言葉に、俯き続けていたナツはラクサスが今、この場で自分の作ったチョコレートを食べてくれたのだと分かり、勢い良く顔を上げた。
その瞳には涙が膜をつくり、頬が仄かに赤く火照っていた。
まさか食べてもらえるとは思っておらず、ナツは嬉しさにはにかんだ。


「へへっ」


一瞬、ラクサスが息を呑んだが、ナツは気付いておらずはにかんだまま。
ラクサスはもう一つチョコレートを摘み上げると、ナツに見せびらかす様にして持ってみせた。


「てめぇも食ってみるか?」

「お、おお・・・?」


ラクサスからの問に少し疑問系で応えると、ラクサスは自分が手にしていたチョコレートを再度口に含んだ。
そして何がなんだか分からず、キョトンとして見上げてくるナツの顎に指を添え、腰を曲げる。


「ラク・・・・んっ、」


ラクサスの名を呼ぼうとしたナツの柔らかい唇が、ラクサスの唇で塞がれる。
驚きで硬直したナツに好都合だと言わんばかりに、ラクサスは己の舌をチョコレートごとナツの口内に侵入させた。
チョコレートと共に口内を蹂躙する舌が、何度もナツの舌を絡め、上顎を舐める度にナツの身体が小さく跳ね上がった。
鼻から漏らすナツの甘い声と、舌を絡め合う度に上がる水音が辺りに響き渡る。


「んんっ、ふ・・・う」


二人の口の中を行き来するチョコレートが溶けた頃、漸くラクサスの唇が離れた。
はぁっ、と熱い息をつくナツにラクサスは口端を吊り上げ、耳元で囁いた。


「自作のチョコの味はどうだ?ナツ」

「!!」


我に返り、ラクサスに今された事を理解したナツの顔が、音が立つのではと思われるぐらい、一気に真っ赤に染めあがる。
ぱくぱくと、掌で口を覆いながら口の開閉を繰り返すナツを至近距離で見つめ、どうなんだ?と再度質問すればナツは小さく呟くように言った。


「に・・・苦かった・・・」

「だろうな」


分かっていただろうに、わざとらしく人事のように答えるラクサスを、手の甲で口元を拭いながら睨み付ける真っ赤な顔のナツ。
甘い空気が二人を包む中、ギルドの者達の心は珍しく一つになった。


“人前でイチャついてんじゃねぇよっ”


と。
その他にも、つかキス長ぇよっ!!
とか、俺達の存在を忘れてんじゃねぇ!
など、いろんな文句を思った者がいたが、相手があのラクサスだ。
誰も自分の今の気持ちを口には出せず、全員腹の内で二人を罵ったのだった。



end.




夏狐様、この度はネタのご提供誠にありがとう御座いましたぁああっ><!!!
ルーシィに手助けをさせようとしたつもりが、
書き終わった後に見返してみると

ルーシィ手助けしてねぇじゃんっ!!!!

と、まぁ馬鹿な事をしてしまった事に気付きましてですね、はい・・・(泣)
ほんとすいません、こんなダメ管理人で・・・orz
しかも思い切りの駄文w
ホワイトデーのネタも
早く書かなきゃな・・・´∀`←遠い目

 

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