その他

□敵わない。
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辺り一面が黒く染まった頃の真夜中。
虚を倒し終えて、毎度のように窓から自室へ戻る。
今日、居候であるルキアは井上の家で乱菊と共に遊んだついでに泊まると連絡があったため、一護は久し振りの静かな一人の時間を過ごしていた。
否、過ごせる筈だったのだが。


「よっ、一護!おかえり」


堂々と人の躯で、我が物顔で人のベッドで横になり、人の雑誌を勝手に読んでいる改造魂魄。
通称、コン。
笑顔で一護の帰りを迎えるコンに、一護は不機嫌さを顔に表し、窓を閉める。


「人の躯で勝手に寛ぐな」

「別にいいじゃんかよー・・・んな固い事ぉ」


コンはベッドから起き上がると早速と言わんばかりに、自室に足を着いた一護に背後から抱き締めた。


「くっつくな変態ライオン」


不機嫌さが増したのか、一護の声が低くなる。
が、そんなのお構いなしにコンは一護を抱き締める腕に力を込める。
うっとりと目を閉じ、一護の項に顔を埋めた。


「いい匂いする・・・・一護の匂いだ」

「はぁ・・・・元に戻れよ、コン」


死神代行証を手に取り、自身の躯(本体)の額に当てようとするが、コンは代行証から避けると舌を出した。


「嫌だ」

「あのなぁ・・・・お前はルキアが好きなんだろ?だったら俺にくっつくなっつの」


呆れたように溜め息をつく一護。
いつもいつも思うのだ。
ルキアが不在の時だけ、こうして密着される度に。
コンはルキアだけでなく、とにかく女性が好きな筈。
主に巨乳の。
だが、何故か何時からかは忘れたが、突然一護に密着するようになった。
大袈裟なくらい男を毛嫌いしていた癖に、よく分からない改造魂魄だ。
一護も慣れたが、コンの行動は徐々にエスカレートしている。
密着するだけでは物足りないのか、髪や額に口付けをするようにもなった。
一護は別に不快には感じなかったが。
何故なら、敵わないからだ。
声に、笑顔に。


「ネェサンは勿論好きだけど、一護は特別なんだよっ」

「は?なんだよ、それ」


笑顔で応えるコンを、言っている意味は充分分かってはいるが、分からないフリをする。
すると、いきなり背後から顎を持ち上げられ、無理矢理後ろへ振り向かされる。
一護が声を上げる暇もなく、唇が自身の躯の唇で塞がれる。
普通は自分自身とキスだなんて、気持ちが悪いと思う筈。
さらには男同士なのだから。
だが、一護は気持ち悪いなどとは思わなかった。
すぐに唇を離した後、コンはいつものように笑顔を浮かべた。
日常でいつも鏡で見ている自分の顔とはまた違う、コンが一護の躯の中に入っているからこそ浮かび上がる笑顔。
眉間に皺も寄っていない、違った一護の顔。


「おかえりのキスっ」


語尾にハートが付くんじゃないか、と思われる程、楽しげに言うコン。
一護の顔に一瞬にして熱が集中する。


「ばっ・・・かやろ」


コンの腕から抜け出し、一歩後ずさって手の甲で唇を押さえつける。
心臓の心拍数が、痛いくらいに早く鳴り響く。
コンは一護の反応に気を良くし、一護に一歩ずつ近寄る。
一護も同じタイミングで後ずさるが、個室であるためすぐに背に壁が当たった。
コンはすぐさま一護を挟み込むように両手を壁に添える。
赤面し、俯く一護の耳元に口を寄せ、低く囁いた。


「好きだぜ?一護・・・ネェサンよりずっと」

「っー!」


ああ、もう。
やっぱり、敵わない。
一護は身体の力を抜くと、顔を上げ、近付いてくる自分の顔に静かに瞼を閉じた。


end.
 

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