短編

□DEAD END
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初めてその瞳と目が合ったときから

男はそれを手に入れたいと思った。

だから暗闇からそれを狙って、期を待っていた。



DEAD END



「材料が足りないな」

邪悪な獣が目を覚ます真夜中。赤い炎を囲ったそこは、良い匂いを漂わせている。
眼鏡をした一人の男が調味料を片手に振り返った。

「この近くにあると思うんだが…。悪いが採ってきてくれないか」
「あ、じゃあ私が」
「いや、アモールでは危険だ。活発な野獣がいるかもしれない」
「大丈夫だよ!逃げ足には自信あるから。それにノクトとプロンプト眠そうだし。グラディオはテント組み立てなきゃだし。私が行くのが効率的だよ」
「…わかった。気を付けくれ」

そうしてアモールはキャンプ場からやや離れた平地を歩いていた。時々耳に届く遠吠えに注意を払いながら目的の物を探す。懐中電灯の明かりだけが頼りのそこでは、嫌でも心臓の鼓動が激しく打つ。
少し明かりを上に向けると、数十メートル先に小屋らしき物が見えた。

「ここら辺にあると思ったんだけどなぁ。電気点いてないし誰もいないかな…。聞けたらラッキーだったけど」
「探し物?」

暗闇から響く声。それと同時に何かに覆われる口と捕まれる腕。

「っ!?」

力強く引きずられ、放り込まれたのは暗い一室。閉ざされる扉。

「…誰!?」
「オレも探し物しててさ。やっと、手に入れられそうだ」
「…っ」
「逃げようとしても無駄だよ」

何者かが背後から忍より、恐れで呼吸の乱れるアモールに声をかける。
びくりと震える身体。しかし瞬時に剣を抜き、見えぬそれに構えを取る。

「やめておきなよ。君じゃ相手にならない。降参しなよ、今すぐに」
「…な」
「そんなんで何が出来るっていうの。もう逃げられない、助けは来ないよ」
「あ、あなたは…」

近付いてきた男が月に照らされ、不気味に光る目を向けた。
冷たい手が、触れる。アモールの頬に涙が伝う。

「帝国の、宰相…っ」
「ははっ、泣いても無駄だよ」
「離して!」
「ダメだよ。君は帰さない。だから君はオレを拒むことはできない」

男が一歩足を進めると、アモールは一歩後退する。それを幾度か繰り返す。

「だから、逃げられないし、逃がさないって言ってるでしょ」
「きゃあ!?」

肩を押され、二人はベッドへと倒れこんだ。
湿り気のある唇がアモールの鎖骨をなぞる。
リップ音と、恐怖の声が、響く。

「っ」
「いい瞳だね。ちゃんとオレを映すんだよ?君自身に刻み込んで、忘れてはいけないよ」
「い、やっ」
「君を見たあの日から、この手に触れることを楽しみにしていたんだよ。君のこの綺麗な顔、身体。ああ、どんな愉しいことをしようか」

指先が肢体をなぞる感覚に恐怖とこそばゆさからアモールは震える。男の唇が首筋を通り、耳たぶを噛んだ。

「っ」
「甘美だねえ」
「あっ」
「そう。全身でオレを感じなよ」

まるで腫れ物を扱うような、そんな触れ方に身体の熱が上昇していくのを感じる。

「抑えられないでしょ?本当は君も望んでるんだから」
「い、や…」
「覚悟しなよ。ここはもう、逃げ場なんてない、行き止まりなんだから」
「…っ」
「だから、ね?オレを呼んで、感じて」

絶望の表情と共に流れる涙は止まらない。男はその滴を舌先で掬う。

「アモール?」
「…っ」
「アモール」
「…あ」
「さ、早く」
「…あーで、ん」
「そう、良い子だね。これからの全てを楽しんで」

唇が触れ合う。濡れたそれは少ししょっぱくて。アーデンは満足げに笑う。
恐怖は全てを支配する。アモールはもう、アーデンの手中に収まった。

あとはもう、飽きるまで遊ぶだけ。

アーデンは笑みを絶やさず、暗闇からアモールを見下ろした。



ここはもう



DEAD END
(さぁ、共に堕ちよう。闇の果てへ)



 

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