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□秘蜜
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私達はみんな、誰にもいえない秘密を抱え生きているのです。
どんな賢者でも、或いは凡人であっても愛する人でも、親でも子でも兄弟でも。
他人である限り、全てを知りはしないのです――……。
そしてあの日、少女は鏡を壊した。
他人の不幸は蜜の味。
深く隠された秘密ほど、人は見たいと望むもの。
不幸のシロップで煮詰められた、誰かの〈秘蜜〉を。
秘蜜
第一章 1
『ここには必要ない子、こんなのいらない子。こんな子、産むんじゃなかった子――……ほら、これがあんたの名前でしょ?』
甲高い笑い声。
楽しそうに光る目、目、目。
あの、目!
口元から覗く八重歯、歪んだ唇。
『あんたなんて、あんたなんて――……!』
やめて。
やめて、やめて、やめて!
やめて、お姉ちゃん――……!
息が詰まって、ココは目を覚ました。
冷や汗がじっとりと身体を濡らし、服が貼り付いているのがわかる。気持ち悪い。
何時だろう、カーテンの隙間から光が差し込んできているから、もうすぐ、朝? なんて思ったと同時に、枕元の目覚まし時計が遠慮がちにピピピと鳴り出した。
もう少しすれば激しく喚き出すであろう目覚まし時計を止めて、ココは身体を起こす。
あれ、ここはどこだっけ?
見覚えのない部屋。
自分の部屋とも、施設の部屋とも違う、ここは――……。
ここは、どこだっけ?
「……おばあちゃん?」
呼びかけても返事はない。
がらんとした部屋には、ただ、朝の空気と孤独だけが漂っていた。
改めて時計を見て、ココは僅かに眉を寄せる。これは少し、寝すぎたかもしれない。明日からはもっと早起きしなくてはいけないっていうのに……。
少しだけ後悔と反省をすると、ココはタオル片手に洗面所に行き、冷たい水で顔を洗った。目だけではなく、頭まですっきりとして、思わずふうっと息を吐き出す。