青の祓魔師

□カップの中身
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「ご機嫌よう、ララ」

突然、家の扉を開けて、入ってきた人物にララは少し驚いた

だが、メフィストだとわかると表情を明るめた

「メフィストおはようっ!」

そう叫びながらララはメフィストの腹回りに飛びついた

「おわっ…こらこら、レディーがはしたない」

メフィストはそう言いながらララを遠ざけた

「レディーって…私、これでも今年で134歳だよ?」

「おや、もうそんなになるのか…成長が遅いものだから、うっかりしていた」

ひどーい、と笑いながらララは椅子をメフィストに差し出した

「失礼。…そういえばララ」

「んー?」

「昨日、奥村燐という少年がここに来たでしょう?」

「うん、来た」

ララは台所に立って朝食の準備をしているので少しばかり片言になってしまう

「彼が、サタンの息子ですよ」

メフィストの突拍子もない言葉にララは手に持っていたコーヒーメーカーを落としてしまった

「獅朗が育ててたんじゃないのっ?…人間として」

コーヒーメーカーは床に落としたまま、ララはメフィストを振り返り、目を丸くして聞いた

「えぇ、ですが…この間…二週間ほど前…少しアクシデントが起きまして…ね」

メフィストはもったいぶるように、カップをくるくる手の中で回しながら言った

「覚醒してしまいました」

「覚醒…でも、そんなふうには見えなかったよ?」

「今は魔剣によって力は制限されているんです」

メフィストはそう言うと、カップをテーブルの上に置いた

それを見て、ララはコーヒーメーカーを思い出し、慌てて床にこぼれたコーヒーを布で吸い取った

「それで、獅朗は?こっちに帰ってきてるんでしょ?会いたいなぁー!」

ララは普段、塔から外には出られないという約束をメフィストとしている

だから、獅朗がこっちに帰ってきてるとしても会いに来てくれなければ会えないのだ

だから密かにメフィストに獅朗に来てくれと頼んでほしいという意味でそう呟いた

「…あの人は帰ってきてませんよ」

何も入っていないカップの中身を見ながら、メフィストは低い声で言った

「え?そうなの?どっかに出張?いつ帰ってくる?」

「もう二度と、ですよ」

メフィストは少し骨格を上げて、悲しそうに微笑んだ

「…?…獅朗は」

どうなったの?と聞こうとしてメフィストはそれを遮るように答えた

「死にました。」

「それは…サタンの息子に…?」

わなわなと震えだす手を押さえながら、ララはメフィストをまっすぐ見つめた

「いえ…サタンに。ですよ」

それを聞いて、あきらかにララの顔色が悪くなった

「…次は、貴方の番ですかね?ララ」

メフィストは悪戯な笑みを浮かべて、カップを掲げてみせた

「でも、まぁ…しばらくは大丈夫でしょう」

メフィストに根拠があるのかララにはわからないが、それでも大丈夫だと確信した

私は強い。強いから、大丈夫だと

「ところで、コーヒーは?」

「今、作るとこ」

ララは無愛想にコーヒーメーカーに水を入れ始めた

「それで、今後、ここの生活よりも寮生活なんてどうでしょうか?」

メフィストは唐突にそう切り出した

だから、すぐに理解は出来なかった

「…え?りょーせいかつ?」

「まぁ、べつに貴方が嫌ならいいんですけどね」

「…んー…えっ?!」

水を入れていたコーヒーメーカーをまた驚きのあまり流しに落とした

「りょ、寮生活っ?!」

「えぇ」

「それって学校に通えるってこと?!」

「そういうことになります」

「ほ、ほ、本当なのっ?!」

「今日はエイプリルフールじゃありませんよ」

「うそぉおおっ!!!!!!!!!!」

ララはメフィストに抱えられるような形で抱きついた

「ありがとうっ!!メフィストっ!私、エクソシストになるっ!」

「まだ…祓魔塾に通わせるとも言っていないんですけどね…まぁ、貴方が望むのならそうしますが」

メフィストは呆れるような顔で抱きついているララの背中を軽く叩く

それに答えるように、ララはメフィストの首に回していた腕を緩めた

そして抱きかかえられる形のまま、一定の距離を保ってメフィストを見つめた

その顔は、さっきとは打って変わって暗いものだった

「…どうして?」

「何がですか?」

「今まで、約100年間この塔に閉じ込めていた私を貴方が何の意味もなく、外に出すはずがない…」

よくご存知で。とメフィストは軽く笑みを浮かべながら、話を始める

「…貴方には奥村燐の監視を願いたい」

「私じゃなくてもいいのに?」

「ついでですよ。ついで。…貴方と近い彼の存在を見ておくことで勉強になるでしょう?」

「それも後付よね?」

ララはメフィストの考えることはすべてお見通しだった

この約100年間、ただ彼に従って塔にいたわけではないのだ

貴方には何を言っても駄目なようだ、とメフィストはため息をついた

「獅朗が亡くなった今、どこにいても貴方はサタンに体を狙われる…だったら塔にいるより、奥村のそばにいるほうがいい」

「それは…もし、私が憑依されたとき、燐と面白いことになるから?」

「まぁ、そういうことです」

「…相変わらず、悪魔だねぇ」

にやりと笑い、ララはやっとメフィストの膝の上から降りた

「貴方も、残り短い生涯を、楽しく青春して終わらしたいでしょう?」

「それ、誰の言葉だっけ?人生の最後に青春がくればいいのに、みたいな言葉」

「さぁ?そんな人知りませんね」

メフィストは笑いながらカップの中身を見た

まだ、カップには何も入っていない

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