青の祓魔師

□溶けていく雪
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…あぁ、気が狂いそうだ


雪男は朝方、窓の外に見える朝焼けを眺めていた

視線を傾ければ、まだ眠る兄、燐の姿

雪男は顔を洗おうと、廊下へと出ていった

「あ、雪男おはよぅ」

突然の声に不覚にもビクリとする雪男

それは仕方ないララは気配を完全に消していたからだ

「おはようございます、ララさん」

「…ん」

ララはあきらか、まだ寝ぼけている様子だった

眠たい目をこすりながら雪男の前を通りすぎた

「…今日休みでしょ?学校」

遠くなっていくララは振り返りもせず、雪男に尋ねた

「そうだよ。なんでこんな早くに起きたの?」

「怖い夢見ただけ」

そうあっさりとした口調で言いながら、ララは水道の前に立つ

雪男はララの怖いとは一体何なのかとても気になった

だが、聞いてはいけないだろうか、と悩みながらララの隣に立って蛇口を捻った

横を見れば、まだララは蛇口を捻ってさえいない

ぼぅっ…とした眼で鏡に映る自分の顔を見ている

「…あの、ララさん?」

「ん?…うん…」

雪男の言おうとしていることにやっと気づき、ララは蛇口を捻った

しかし、ララは次の行動をしようとしない

水の流れる音に耳を傾けているようにも見えるが、ただ、ぼぅとしているだけにも見えた

「あの…」

「ん」

雪男に声をかけられ、ララは思い出したように顔を洗い始めた

もう顔も洗い終え、歯磨き中の雪男はいつまでも顔を洗うララを横目で見た

ララは近くにある洗顔フォームに手はつけず、ただただ水で洗い流しているだけだ

歯磨きを終えた雪男は少し考えてから独り言をいうように呟いた

「怖い夢てどんなですか?」

たいして興味なさそうに明るく呟いてみる

返答がないなら深く聞いてはいけないということだと雪男は思ったからだ

雪男の言葉にララの動きが一瞬だけぴたりと止まった

まずいことを聞いたかな、と思いフォローしようと口を開きかけた時

ララは勢いよく、濡れた顔をあげた

まっすぐに雪男を見つめる

雪男はその目に自分しか映っていないように見えた

「…燐が…死んじゃうとこ」

「…。」

雪男はその返答に絶望したような顔を浮かべた

ララはそんな雪男には目もくれず、洗顔フォームを取った

すばやい動きで洗顔フォームを顔全体に塗り、洗い流した

そして近くにある歯ブラシをこれまたすばやい動きで取り、歯磨き粉はつけず、シャカシャカと磨き始めた

「兄は…大丈夫です。絶対、死にませんよ」

「どぉうしてそう言いきれるのぉ…?」

歯ブラシを口に突っ込みながら、雪男に訊いた

「だって、兄は…悪魔…」

「悪魔だって死ぬよ」

そう断言すると、ララはコップの水を口の中に含んだ

「わかってます。兄さんはいつも無茶をする…だから、僕が兄さんを守りぬくつもりです」

「燐を守るためならどこまで、犠牲に出来る?」

「…。自分と…引き換えにしても」

ララは、歯磨きを終え、歯ブラシを戻した

「自分を犠牲には、しないで」

「でも…」

「燐を絶対に一人にさせちゃ、ダメだよ…もちろん、雪男も」

ララはさっきの寝ぼけた顔とは変わって、雪男をまっすぐ見た

「ふ、わかりました」

雪男は気が緩んだように微笑んだ

「…それで、いーの!…あ、あともう一つ」

階段を降りようとしていたララは振り返り雪男を見て微笑んだ

「私が燐を殺す前に」

「…え?」

雪男はララの言っている言葉の意味がわからなかった

「夢。私が燐を殺したの」

明るい声で呟くが、その顔は笑っていない

「そんなの…」

あるはずない、といいかけた雪男の言葉を制するようにララは言った

「私が燐を殺す前に、私を殺してね…雪男」

その言葉は悲しく微笑んでいるようだった

「ありえませんよ、そんなこと、だって…ララさんは兄を愛しているじゃないですか」

そして、また兄もララを愛している

そこに僕のいる場所なんてないのに…

「忘れたの?私は…吸血鬼だよ」

「忘れてません」

「…サタンに体を狙われてるの。獅朗みたいにね」

「知ってますよ」

「ほら、十分なくらい燐を殺す可能性を秘めてる」

ララは階段の途中に立ち

手を広げ、雪男に向きなおった
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