青の祓魔師

□鳴いた泣いた黒い猫
1ページ/2ページ

昔一度だけ、獅朗が連れてきたことがあった

『今日からこいつ、南裏門の門番になったんだ、仲良くしろよ?』

一つのところに縛られる仲間が増えた、と私は悲しんだけれど

あの子は嬉しそうに笑っていた

そんなに獅朗が好きだったのか…そんなにつらかったのか、私にわかることはなかった

何一つとして




この間、南裏門を通ってホテルに向かったからなのか

急に、夢に見てしまった

「嫌な話…私が出れたからって思い出して…」

嫌な奴だ、とララは自己嫌悪しながら汗びっしょりの首筋を撫でた

手にさらりと張り付いてくる汗

「…もう、夏か」

ララはそう一人ごちながら窓の外に目を向けた

すると燐がビニール袋を掲げて帰ってきているのが遠目に見えた

燐の姿を見たことで急に嬉しさが込み上げ、思わず燐達の部屋に先回りしていた

がちゃり、バタンっと大きな音を立ててララは中に入った

「…え、ララさん…おはようございます」

「おはよう。雪男」

久しぶりに雪男と会話した気がした

それは雪男も同じだったようだ

「久しぶりですね。こうやって話すのは」

ララは座っていない燐の椅子の腰掛けた

「うん、そうだね…ここのところずっと先生だったもんね」

ふいに、しえみが雪ちゃんの先生姿かっこいいよねーとか言っていたのを思い出した

「…雪ちゃんは今日も勉強ですか?」

「えぇ、まぁ…」

そこまで言ってピクリと雪男の背中がはねた

ゆっくりと振り返り、ララの顔をまっすぐ見た

そうか、雪ちゃんに反応したのか、と認識したララはにやりと笑った

「雪ちゃん♪」

悪戯心を精一杯働かした結果がこれだったのだが、思った以上に雪男は顔を真っ赤にして固まっていた

「そ、その…それは…嫌ではないんですが…」

その反応に逆に面食らったララは目を丸くして雪男を見ていた

案外、可愛いところもあるんだな。と思いながらララは椅子から立ち上がって雪男の机に手をかけた

「雪ちゃん。可愛いよね」

にっこりと微笑むララ

雪男には天使の笑みのように見えた

「あ、あはは、ぼ、僕も夏の暑さにやられたのかな…」

雪男はそう言いながらララから目線をずらし、再び勉強に集中した

「…。そういえば、さ」

この間、シュラと飲み会をしていた夜

その翌日から雪男は燐と喧嘩しているわけではないのだろうけど

とても機嫌が悪かった

「何か悩んでるの?」

「…え?」

雪男は一瞬、驚いた顔をみせたが、一変していつもの表情に戻った

「悩み事なんてありませんよ。しいて言うなら兄さんの成績があがらないことかな」

雪男はそう言うとふぅと大げさにため息をついた

「ララさんもね」

「…うっ…わ、私はいいんだよっ!」

「よくないよ。祓魔師になるんでしょ?」

雪男は悪魔のような笑顔を浮かべていた

(…やっぱり、私はこいつが苦手だっ!)

心の中でそう叫んだ

そこへ燐が扉を開いて部屋に入ってきた

「あーあちい〜〜お、ララじゃん」

「おはよう。燐」

「ララにコレやるよ」

ほいっと渡されたのはチョコエッグだった

「なんで、これ…?」

「なんとなく。喜ぶかなって思って」

燐はそう言いながら椅子にドカッと座った

「…ていっても兄さん…おまけのほうに?お菓子のほうに?」

「なんだよ。どっちもだよっ!一石二鳥だろ!!」

「ありがとうっ!燐!!」

思わぬプレゼントに子供以上にはしゃいでいるララを見て雪男はもう何も言わまい、と決めた

「…僕のミネラルウォーターは…?」

「え?あれ!?…あっゴメン忘れた」

燐はしまった、という顔で雪男を見た

「俺のゴリゴリ君喰うか?」

燐はそう言ってゴリゴリ君を近づけるが、雪男は断って勉強に再び集中した

「あーあ、せっかく候補生ってのになったのに勉強ばっかで訓練生と変わんねーよ」

そういえば、そうなのだ

ララと燐達は全員、無事、候補生に昇格

その後、皆でメフィストによりもんじゃをご馳走してもらった

あれは皆で楽しかったな、などと思い出に浸りつつ、燐と雪男の少し後ろに座り、二人の背中を眺めていた

「チッ、この一番上の"聖騎士"ってのになるとしたらどんだけかかんだよ

その言葉を聞いてララは一瞬固まる

(かえるのこは…かえる…?)

ララはそう思ってから、チョコの包み紙を開けるのを再開した

雪男と燐の会話を聞いていたが、しばらくすると兄弟喧嘩というようなものが始まってしまった

半分は意味がわからなかったが…どうして、雪男の機嫌が悪いのかわかった

雪男は燐の体を心配しているらしかった

燐は鈍感だからそれに気づかない

雪男自身もあまり気づいていないだろう

「んだと…このメガネ!!

その途端燐はつい手がすべり、おそらく顔を殴るつもりが手加減しすぎてメガネにあたり

そのメガネは宙を舞った

パンとすごい音を立てて天井にぶつかり

カチャッと雪男の頭上に落下した

「…。」

ララはあちゃーという顔で額を押えた

一方、燐は面白がって笑いだした

「笑い事じゃねぇえんだよ…!!

雪男の顔が…悪魔に見えた

(こ、この人も…悪魔の血を受け継いでいるからな…な、何も不思議なことじゃない…)

ララは必死に自分に言い聞かせながら笑みを浮かべた
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ