青の祓魔師

□守れなかった大切なもの
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目を覚ませば、いつもと変わらない寮の部屋で

いつもと変わらない朝のようで

いつもと変わらないあのふざけたピエロがごきげんよう、などと笑みを浮かべていた

「昨日は大変だったそうですね…あれから」

メフィストはそう言いながらマカロンを口に運んだ

「…燐は?」

聞きたくないけれど、聞かなければいけなかった

これはこれからの自分の人生に大きく関わってくるからだ

「奥村燐君は、半年後の祓魔師認定試験に…もぐ、合格しなければならない…んぐ…のです」

「っていうことは…燐は、無事なのね?」

ララは顔を緩めて、ベットから起き上がった

メフィストはマカロンを食べながら、はいと短く返事した

「良かった…」

ララはほっと息をついた

それから眠る前の記憶を辿り、あの思い出した記憶についてメフィストに訊いてみることにした

「ねぇ、メフィスト、私…記憶が戻ったの…」

「ほぅ?それはどんな記憶ですか?」

記憶が戻ったというニュアンスに驚かないということはやはりメフィストは知っていたということなのだろう

「…抑圧された記憶…知ってたのね?」

メフィストはその言葉に少し躊躇ったような表情をみせたが、すぐに笑みを浮かべて言った

「ララとは何年の付き合いになると思ってるんですか、知ってて当然ですよ」

「じゃあ、何があったの?何で、私あんなことになってたの??」

ララにはあの場所に至るまでの過程がわからない

それはメフィストの嘘しか語らない口から真実を訊くしかないのだ

「…貴方は吸血鬼ですよね?」

メフィストは酷く悲しそうな表情で語りだした



吸血鬼とは俗にいう血を吸う化け物のようなものだ

しかし、ここで一般的に違うのは彼らは吸血鬼という単体の化け物ではなく

悪魔という化け物ということ

鼠や土竜に憑依するのがゴブリンなら

吸血鬼は蝙蝠に憑依する悪魔だ


吸血鬼は本能で血を求める

人間でも悪魔でも、動物でも構わない

生きるための食事、それが彼らにとっては血だというだけのこと

しかし、本能のままに行動するは動物、悪魔とたいして変わらない

しかし、ハーフともなれば話は別、人間のように理性を持ち、生存できる血液があるとき

つまり、腹が減っていない時は理性が働かせる

ララもハーフなので、適度に悪魔のメフィストの血を貰えば、理性を失い、暴走することはない



「だから、私があんなふうに誰かを…襲うことなんてありえないでしょ?」

私の知ったことじゃありません、とメフィストは一言

「貴方は謎の事態によって暴走した。それを止めに来たのが当時の祓魔師に昇格したばかりの生徒達だけだった」

メフィストは持っていたマカロンを親指と人差し指でつぶしてから口に運んだ

「おっとマカロンがなくなってしまった。私はこれで」

「え、ちょ、ま、待ってよ!メフィ…」

メフィストはごきげんよう、と呟くと一瞬にして姿を消した

「自分の都合が悪いことがあると、いつもこれだ」

ララはぷくぅと頬を膨らましながら、ソファに勢いよく寝転がった

「ダン…」

メフィストが本当のことを語らないのなら、ダンに聞けばいい

彼は、人の時を記録しているはずだ

もちろん、ララのことも

ララは徐な様子で立ち上がり

机の引き出しにのろのろと手をのばし、中から魔法円の略図が書いた紙を取り出した

「"人の心を映し、人の時を録す者、我、汝の助けを求める者"」

ひゅるんといつもと変わらず、分厚い本が飛び出してくる

その中から、やはり前とは変わった姿のダンが現れた

今度は16歳ぐらいに見える少女だった

赤い髪を短くショートカットにし、その可愛いらしい童顔とは反対に黒い無地の薄気味悪いローブを着ている

アンバー色の瞳を輝かせながらどうされました?といつもの調子でダンは訊いた

少し可愛らしい見た目に戸惑いながらも、用件を話す

「私の…抑圧された記憶のこと、教えてほしいの」

「わかりました」

鈴のような声を響かせ、百合の花のような笑顔を浮かべながら、ダンは分厚い本を開いてみせた

「どこから、話せばいいでしょうか…」

そう言ってダンはララに指示を求めた

だが、当の本人はどこからというスタートがまったくわからないので、適当でいいと思った

「その人に出会った時から全部ぐらい?」

「そうなると、一年ぐらい…目覚めることなく、見ることになりますよ」

「えぇー…」

ララは困ったようにダンを見上げる

ダンはそうですね…と呟きながら分厚い本、日記のページを一枚一枚捲っていく

「出会った時の思考。あの日の惨劇の理由。それだけ見れば、貴方も自然と思い出すでしょうね、それでいいですか?」

ダンの言葉にララはこくんと頷いた

では…と言ってダンは本を読み出した

その途端、急激に眠気がララを襲い、こてんとソファの上で眠ってしまった

ダンはまだ本を読んでいる

この本を読み聞かせることでララの夢に過去と同じ思考と記憶を見せることが出来るのだ

「今から少し前…彼は唐突に、約100年程前から塔の上に閉じ込められている少女がいるという噂を聞いた」
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