青の祓魔師

□意地張り少女
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「皆さん、今日から楽しい夏休みですね

雪男は、そう言ってにっこりと笑みを浮かべた

「―――ですが、候補生の皆さんはこれから"林間合宿"と称し…"学園森林区域"にて3日間、実戦訓練を行います」

ララは合宿という聞き慣れない単語に首を傾げながら、雪男の長い説明を聞いていた

「この林間合宿もテストを兼ねていますので、気を引き締めていきましょう」

はい、という声が多い中、燐だけはおしっという返事で終わり、廉造のは無駄にうっとうしい長い返事で終わった



【正十字学園最下部 学園森林区域】

蝉の鳴き声が聞こえる

じわじわと暑さが照り付けてくる

額にべっとりと髪がくっつくのが気持ち悪かった

ララと同じように塾のみんなも息が上がっているようだった

しかし、燐だけは例外で…体力の尽きるところを知らない

(私は吸血鬼のハーフだからなぁ…)

ララは、燐のように体力はあっても、暑さに耐性は出来ていないのだ

しばらく歩いた先に木々をそこだけ切り、開いたような広場が広がっていた

「さて、ここでテントを張ります」

やっと目的地についたらしく、荷物を置き始める

皆、汗を拭いながら、雪男の話に耳を傾けていた

「男性陣は僕とテントの設営と炭熾し」

それから、雪男は女性達に目を向けて言う

「女性陣は、霧隠先生の指示に従って、テント周囲に魔法円の作画と夕餉の仕度をお願いします」

ララはちらりとシュラを見る

この前、燐と何の話をしたのかずっと気になっていたのだ

隙を見て、訊き出そうと心の中で呟いた



魔法円を地面に書いていく作業はなかなか地味だった

燐達を見れば、わいわいと楽しそうに騒いでいる

「あはは、楽しそうだね!」

「…なにが?暑苦しいだけじゃない」

しえみと出雲は二人でなにやら話をしているらしかった

訊きだすなら今だろうと思い、ララはシュラのくつろいでいる木の下に近づいていった

「…シュラ」

「んー?」

「この前、燐と何を話したの?」

「なんでそんなこと知りたがるんだよ?」

シュラは興味なさそうに欠伸をしながらララと話をしている

「シュラがヴァチカンへの報告を保留にするほど、燐は面白かったのかなって思ってね」

ララは本当は燐が何を黙っているのか知りたかっただけだった

「あいつ、聖騎士になるんだとよぉ〜」

シュラはくくく…と笑みを我慢するような声を出しながらそう言った

聖騎士…かつて獅朗がついていた称号だ

「かえるの子はかえる…」

「そう、それ!それなんだよねぇ〜面白いってのなんのぉ〜」

シュラはそう言いながら笑いが堪えきれなくなってきたらしい

さっきの笑いを我慢するような声はあはは、と声になり始めている

「シュラ…私は燐がとても哀れに見えるの…私と一緒でね」

そう言いながらシュラを盗み見ると、さっきとは打って変わって真剣なものになっていた

「アタシは可哀想だと思ったからヴァチカンへの報告を保留にしたわけじゃない…」

「そうでしょうね」

「…ララは…燐を可哀想にしたいだけなんじゃないか?アイツほど自分は可哀想じゃない、そう思いたいだけだろ?」

「そんなこと、ない!!!」

思わず大声を上げてしまった

その言葉に一斉にみんながララを注目する

「どうかしましたか?ララさん、シュラさん」

「…。」

ララはシュラをちらりと見て、謝ろうかどうか悩んだ

そんなララを察してか、シュラは木から飛び降りてきた

「いーんだよ。アタシとララの話なんだからぁ〜」

「…シュラさん、ちゃんとやってくださいよ?」

「ほいほーい」

雪男を追い返したシュラは暢気に手を振った

そしてくるりとこちらを振り向くと、ララの頭に手を置いた

「アタシが悪かった」

「…ううん、私こそごめんなさい」

ララは首を軽く横に振ると、そう謝罪した

「あの…」

しえみが様子を覗うように声をかけてきた

「おっ出来た〜?早いなァ優秀優秀♪」

しえみと出雲は心配そうにこちらを見ていたのでララは安心させるように笑みを返した




次は料理でカレーを作るらしい、燐に何回か作ってもらったが、自分では作ったことはない

しえみに関してはカレーという言葉すら聞き慣れないようだ

ララはとりあえず燐がいつもそうしているように人参の皮をむき始めた

「ララちゃん、カレー作れるの?」

「燐のね、見様見真似だよ」

そういいながら皮をむき終わり、手際よく人参を一口サイズに切っていった

「いた!」

突然、出雲が短い悲鳴を上げた

じゃがいもの皮を切ろうとして自分の指を少し切ったらしい
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