青の祓魔師

□廉造にしがみつく
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医務室に着くと、勝呂と子猫丸と廉造は重症のようで、ぐったりと項垂れていた

「なんや…なんなんや…」

勝呂は腑に落ちないというように独り言を呟いている

見れば、まだ雪男の姿はない

ララは燐のことが、不安で心配でたまらなかった

もし三賢者から処刑の命が下れば、逃れられるはずもなく

それを仕組んだメフィストに怒りさえ覚えた

何か策があるのはわかるが…

そんなことで、燐の生死を危険に晒してほしくない

むんむんとメフィストの怒りに堪えていると、しえみを連れ、雪男がやってきた

「皆さん、説明します。その後で手当てをするので」

雪男はそう言うとベットに腰掛けて、皆と向き合う形をとった

「奥村くん――いえ"奥村 燐"は…約十五年前、サタンの憑依体と人間の女性との間に生まれた子供ですサタンの青い炎の能力を継いでいます

雪男の言葉に皆は驚きと焦りの表情をみせた

途端、ララの脳裏に何かの映像が過ぎった

(…痛っ…何今の…?)

頭痛と共に、今朝見た夢が思い出せないような感覚がやってきた

何かがひっかかる、思い出せそうなのに思い出せない

何の映像だろうかと記憶を探っていると、いつの間にか話が進んでいた

「奥村 燐は"降魔剣"の中に炎を封印することで、この十六年、比較的、常人と近い状態で育てられました」

するとまたズキンッと頭痛が走った

何かを思い出そうとしている。いや、思い出したくないといっている…そんな気がした

「炎が降魔剣抑え切れなくなって覚醒したのは三ヶ月ほど前―――それまでは本人も自分が何者かは知らずに育ったんです」

しえみは雪男の話を聞き、瞼を閉じて何かを考えているようだった

「何で、何が目的で育てられた?」

「正直僕にも判りません、すみません僕に判る事はここまでです」

雪男はそれだけ言うと、部屋から出て行った

皆俯いて何を考えているのかララにはわからない

途端ララの脳裏にまた何かの映像が流れた



血で出来た水溜り

鉄分のあの独特な匂いまでも記憶しているかのように思えた

揺らぐ視線の先に映る数人の人影

正十字学園の制服を着ている男子、女子

剣や刀、銃などを持っているからおそらく祓魔塾の生徒だろう

しかし背丈は今の勝呂達の倍




「だ…誰…?なにこれ」

ララは頭を抱えて、床にしゃがみこんだ

「?…ララちゃん??」

廉造が心配そうにかけよる、出雲の声も遠くでする

だが、ぼんやりと脳裏に蘇る記憶が気になって目を閉じた




遠くで声がする

誰かに何かを訴えるような声だ

悲しく、泣いているが怒っている声

誰の声かわからず記憶をたどる

すると違う別の記憶が流れた




「私のこと、怖くないの?」

「別に、お前のこと怖いわけないやろ?」

彼はそう言って笑った

…あの塔で



「なんで、お前が…こないなことすんのやっ!答えろ!ララ!!」

彼は泣きながらそう叫ぶ

歪む視界、滲む視界…息が切れる、喉が渇く

私は、伝説の刀といわれる神息を構える

勢いよく走り、人影のほうへ向かう

「…お前ら、手ぇだすなよ…?」

彼の声が小さく聞こえる

風が耳元で響くようだ

目の前はかすれて見えない

ただ、本能のままに動くだけ

そこに雑念は感じられない、ただただ一つ

喉の渇きを潤したいという願いだけ

彼は、錫杖を構えた

金属の音と共に私の刀と彼の錫杖がぶつかる

弾き合って、競り合って、まるでダンスのように…

錫杖を使って彼は私の刀をねじり、弾き飛ばした

手が空っぽになる私

向かい合う彼の顔は、まるで私を恨むような目をしている

(どうしてなの…?貴方は私のこと、怖くないって言ったじゃない)

私は頬に湿った感覚が流れた

それを見て、動きを止める彼

「やめて…」




「…やめて…やめて、助けて。嫌だ、見たくない、廉造、廉造!」

ララは近くにいた廉造にしがみついた

必死に廉造の胸の中に顔を押し付ける

心臓が速い、足元が崩れるような感覚に陥る

それでも、映像が止まることはない

頭痛と共にまた、再生された




彼は、動きを止めた、殺すのを戸惑った

(やめて…殺して。お願い…殺すのをやめないで、迷わないで)

木霊する自分の声

目の前の彼にそう訴えるも声にはならない

体の自由は本能にのっとられてしまっている

彼は決心が揺らぐのか、眉を顰めながらララを見下ろした

その隙を窺ったように記憶の中の本能の私は、遠くに飛んでいった刀を拾い上げた

「…造!!危ないっ!」

誰かが叫ぶ声が聞こえた

背中を向けた彼の肩から背中にかけて、私は刀を、振り下ろした





わなわなと手が震える、廉造の服の裾を握り締めるのにも力が入らない

「れん、造…?」

ララは声を振り絞った

「…なんや、ララちゃん」

廉造は優しい声でまるで子供をあやすかのように囁いた

その暖かい声にララは徐々に安心していき、映像が切れたこともあって

廉造の腕の中で眠気にて襲われ、瞼を閉じた

「ねぇ、燐のこと嫌わないであげて」

自分のことよりも燐のことが一番心配だった

「お願いだから、燐に私と同じ思いをさせないであげて」

ララの意識はゆっくりと遠のいていった
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