短編小説

□土砂降りの日に
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最近雨ばっかで、たまには晴れてくれないかと思ったら雨の勢いが強くなった。

なんだ、断るってことか。

窓の鍵を弄びながら暗い空を睨み付けると、もっと強くなった。

…もう何も思わねぇよ。逆をついて、雨よ降れと思ったところで何も変わらない気がする。

「今、台風来てたっけ…」

そんなはずは…ない。
けど、こうも続けざまに雨だと退屈だ。
読書を黙々とする柄でもない。
そんなことを考えてたら、ベッドに放り投げた携帯電話が最近の曲を流し始めた。
それはどうやらメールのようで、俺は受信ボックスを開いた。
その内容は、これから行ってもいいかという至ってシンプルな物なのだが、送信相手が相手なだけに、一瞬フリーズしてしまった。

「え…えぇ!?」

珍しい。そう思わずにはいられない。
まだ少々戸惑ってはいるが、それでも俺は返事をすべく携帯電話に指を滑らせた。



OKの返事を返して数十分。彼はやって来た。

「急に来てすまない。迷惑じゃなかったか?」

綺麗に整えられた眉を寄せてそう言う彼に大丈夫だと言ってやったら、分かりづらいがホッとした様子で、それならよかったと目元を和らげた。

「けどよ、何でまたこんな土砂降りん中ウチに来たんだ?しかも、お前にしちゃあ珍しく突然じゃねえか」

適当に座ってくれとテーブルの前を指差しながら聞く。
すると、特に用があったわけじゃないと言って彼は窓の方をみた。

「そっか……」

言って、何となく、俺も窓の方(正確には窓の外)を見た。相変わらずの土砂降り。
少し収まったか?

「見たかった…の、かもしれない……」

「へ?」

また雨の事を考えていて、気の抜けた返事をしてしまった。
何も考えないと決めたのに。そう悔やみながら彼を見ると、まだ窓の方を見ていた。何か、いつもと様子が違う気がする。
首を傾げながら、え、ごめん、何だって?と聞こうとしたら、ありがたい事に彼はもう一度言ってくれた。
しかしその視線はまだ窓の方だ。

「お前の顔を見たかった……のかもしれない」

一体彼に何があったと言うのか。突然のメールも然り、今の発言も然り。
何だか、言葉を理解していくにつれて耳が熱くなる気がする。
咳払いをひとつ。

「そう言うわりには、窓の方ばっか見てんじゃねぇか」

雰囲気に負けてる気がして、強気で言ってみた。
けど、チラともこちらを見ることなく、今は声をきいてるんだと言ってきた。
本当に、一体彼に何があったと言うのか。
完全に雰囲気に負けた俺は、それに流されるまま彼の長い三つ編みを手繰り寄せ、軽く引っ張った。
すると、やっと彼はこっちを見た。

「せっかく一緒に居るんだしよ、顔も声も、両方堪能しろよ」

しっかり瞳を合わせ、囁く様に言う。
そうしたら彼は、何か贅沢だ。と言い出した。
だから俺は、土砂降りの中来てくれた礼だよと言って、不思議なことばかり紡ぐその薄い唇に蓋をしてやった。

それから俺たちは、暇だなとか、じゃあお菓子作るかとか、あ、材料無いかもとか話して、それじゃあ、来週の土曜日にどっか出掛けるかと約束して。

とりあえず今日は、同じファッション雑誌を見て、コレいいな、何て他愛ない話をしながら静かに過ごす事にした。




end

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