短編小説
□紫煙
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まだ日が昇らない時刻に、ヴェイグは目覚めた。
起きるには大分早い、そう考えて寝返りを打つと、カーテンが揺らめくのが見えた。
それを機に何だか頭が冴えてしまい、導かれるようにベランダへ向かう。
カラリ、と窓を開けると、そこには同室のユージーンが居た。しかも、その手には珍しい物を持っていて…。
「……ユージーン…」
呼びかけると、金色の瞳でちらりとこちらを見ただけで、またすぐに外へと目を向けた。
恐らく、気配で気づいていたのだろう。
「……起こしてしまったか?」
「いや…」
たまたまだ、と言って、「それは?」とユージーンを伺い見る。
どうやらそれだけでヴェイグの言わんとすることがわかったらしく、「ああ」と彼は呟いた。
「たまにな、こうして吸っているんだ」
「……意外だ」
あんたがそんなものを吸うなんて、とヴェイグは続けた。
身体に悪いとよく耳にするそれはしかし、暗闇の中、温く緩い風に撫でられるユージーンにとても似合っていた。
「……うまい、のか…?」
紫煙の行く先を目で追いかけながら、ヴェイグは尋ねた。
「吸ってみるか?」
聞かれて、ぶんぶんと首を横に振る。
興味は多少あるものの、吸いたいとは思わない。
ユージーンの口元から白い歯が見えて、からかわれたのだと気付く。
少しムッとして、ヴェイグは手すりにもたれた。
「ははは、冗談だ。煙草は二十歳からだからな」
酒もだぞ、と付け加えるユージーンに、ヴェイグは「わかっている」とぶっきらぼうに返す。
「……そろそろ寝直す」
しばらくして、ヴェイグが切り出した。
お互い何を話すでもなく静かな時を過ごしていたが、いい加減休まなければ日中に影響が出るかもしれない。
何より、また眠くなってきた。
「そうだな。そうした方がいい」
おやすみ、と言って、ユージーンはまた外に目を向ける。
窓を閉めて、カーテンを閉める間際、ヴェイグは何となしにユージーンを見た。
外はわずかに白み始めていて、それを受けて鈍く光る金色の瞳に、ヴェイグは紫煙を思い出す。
思いもよらぬユージーンのたしなみ。
新しい一面を見れて嬉しく思うと同時に、大人の格好良さに人知れず胸がときめいた。
他の誰が同じ事をしても、こんな風に感じる事はないだろう。
きっと、ユージーンだからときめいたのだ。
起床時間まであと数時間だが、良い夢が見られそうだとヴェイグは微笑み、そっとカーテンを閉めた。
end.