短編小説
□It grows sugar
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無口で無愛想なお前の周りには、いつも誰かが居る。
現に、食後のデザートを食べていても話しかけられてばかりで、ちっとも手が動いていない。
兄のルークもその群れの中に居り、やたらと話しかけている。
(…王位継承者と言われている身分で、みっとも無いな。アイツもアイツで、律儀に答えやがって…)
ロックスにしては珍しく甘さ控え目なケーキを食べながら、じっ…と彼を見る。
人と人の隙間から僅かに見える銀髪を見ているうちに、だんだん苛々してきた俺は、残り二口分程のケーキを口に突っ込み皿を片付け、彼の元へ向かった。
「……おい」
一声かければ、当然だが、「なんだ?」と返された。
こんなに群れている所に俺が来るのが余程意外だったのだろう。
ルークは俺の恋人の肩に手をかけたまま、目を点にしていた。
(…気安く触りやがって)
俺は黙ったまま彼のケーキと紅茶を、ロックスから借りたトレーに乗せて片手で持ち、もう片方の手で彼の腕を引っ張り立たせる。
「…行くぞ」
呆けた顔でこちらを見ている彼を、無理矢理食堂から出させる。
少しの沈黙の後、後ろからはギャアギャアと文句の声が聞こえてくるが、そんなものは無視だ。
「…部屋で食うぞ」
そう言って、俺は己に貸し与えられた部屋に連れ込み、邪魔が入らぬよう鍵を掛けた。
それからテーブルにケーキと紅茶を並べて、椅子を引いてやる。
「…無理矢理、すまなかった。だが、ああでもしなければお前は一生、このケーキを食べられなかったと思うぞ」
今はもういつもの仏頂面でこちらを見つめてくるが、その青い瞳を見れば、どうやら迷惑しているようでは無かった。
とりあえず座れと、また少し椅子を引く。
「……アッシュは、すごいな。……正直、早くケーキを食べたかったんだ……」
あんたが美味しそうに食べていたから、と。
そこまで言ってようやく、ヴェイグは椅子に座りケーキを食べ始めた。
(……また、やられた…)
いつの間に見ていたのだろうか。
疑問に思い、ふっ、と息を吐いたら、何だか可笑しくなってきた。
堪えられずに声を漏らすと、愛しい彼は紅茶を飲みながらこちらを見上げて、眉を寄せていた。
どうしたら勝てるのだろうかと頭の隅で考えながら、視線は彼の唇に吸い寄せられる。
そこには真っ白なクリーム。お約束と言うか何と言うか…。
だが、これに乗らない手はないだろう。何だかんだで、結局は自分も他の連中と同様、この手
に関する思考は単純なのかもしれない。
だったら、堂々とやってやるさ。
「……ヴェイグ」
「……何だ」
「……くち、付いてるぞ」
そう、何だってやってやる。
お前が求める事なら。お前が堕ちてくれる事なら。お前を、繋げておける事なら…。
いつの間に手慣れてしまったのだろうか。
俺は彼の顎を掬い、真っ白なクリームと共に、淡く色付くその唇をちろりと舐めた。
味は……先ほど俺が食べたケーキより、少しだけ、甘味が増していた。
end.