短編小説
□仲良くしませんか?
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ほどよく暖かい室内にて、ヴェイグとサレはお茶を楽しんでいた。
今日はサレに合わせてベリー系の紅茶。お菓子はチーズケーキやクッキーが準備されている。
最近サレは、あることを試みるようになった。
それは、ヴェイグに付いてきたザピィと触れ合う事なのだが、一向になつく気配がない。
元より、ノースタリアケナガリスは人になつく傾向があまり無いと言う。クレアやヴェイグになついているのは、主に付き合いが長いからだろう。
しかしサレとの出会いは最悪、且つ一年も経っていない。人に慣れてはいるものの、肩に乗せる等の芸当はヴェイグの仲間にすらしないのだからなかなか難しいだろう。
「まあ、気長に付き合えばなつくだろう。動物は敏感だ。焦ればそれが伝わる」
「…わかってるよ」
餌に夢中なザピィに触れようと手を伸ばすサレ。しかしあと少しと言うところで餌ごと逃げられてしまい、ぐっと息を詰めた。
「わかってはいるけど、どうも最近は警戒を通り越して、軽くあしらわれてる気がするんだよね」
「……サレが、あしらわれる…?」
そのさまを想像して笑いそうになったヴェイグは、紅茶を飲むことで誤魔化そうとした。
「あ、今笑ったでしょ。失礼しちゃうよ、こっちは真剣なのに」
「……すまん」
バレてしまっては仕様がないと、素直に謝る。
「……サレがザピィと親しくなりたいと言う想いは伝わっていると思う。根気よく付き合っていけば、いつか必ず……な、ザピィ?」
「…って言ってるそばから僕の部屋をウロウロし始めてるんだけど、あのリス」
「……その……すまん…」
目をそらして頬を赤く染めるヴェイグを見て、サレは微笑む。
ヴェイグが謝る必要無いのに、と。
「何で君が謝るのさ。いつもの事だし、気にしてないよ。部屋を荒らすわけじゃないし、大人しい良い子だ。……ホント、威嚇もしない、大人しい良い子だよっ…」
少し怒り混じりのその言葉に、ヴェイグは苦笑する。
この様子だと、楽しく触れ合うのはしばらく先になりそうだ。
そんなことを思いながら、広い部屋を散歩するザピィを目で追いかけていたら、後ろから温もりが伝わってきた。
「……まあ、別にあの子になついてもらえなくても構いやしないよ。君が……ヴェイグが、居るからね」
「……サレ…」
サレの言葉に、ヴェイグも満更では無い様子でうっとりと目を伏せた。たちまち二人はザピィの事を忘れ、二人だけの甘い世界に入っていく。
ヴェイグはサレに抱きつかれるがまま、そっとその腕に手をかけ、サレはヴェイグに抱きつきながら、空いている片方の手でヴェイグの髪をすいていく。
と、突然けたたましい音が鳴り響いた。
ハッとして辺りを見回すと、テーブルの上が滅茶苦茶になっているではないか。
そこにはザピィも居て、何故か尻尾をペロペロと舐めていた。
よく見れば、少し濡れているような気がする。
「あああ!特注で作ったテーブルクロスが紅茶まみれに…!」
「……こら、ザピィ。こんなことをしたら駄目じゃないか。次からは気をつけるんだぞ?」
「次なんて無いよ!良い雰囲気がぶち壊しだ!……やっぱり君とは仲良くなれそうに無いねえ…」
ジリジリとザピィに詰め寄るサレ。威嚇をしていたザピィも危険を察知したのか、遂にはタタタッと逃げ出してしまった。
「あ、この……!」
そのまま追いかけっこを始めた二人を他所に、ヴェイグはテーブルの片付けを始める。
流石に物を荒らすのは良く無い。この点は後で躾ないと、と思いながら。
end
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