短編小説

□俺は感謝します。
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二週間後に迫ったサッカー部の練習試合の助っ人として部活に参加していたティトレイは、途中に降ってきた雨と滴る汗をタオルで拭いながら、部活が終わる頃のことを思い返していた。

部活時間が終盤に差し掛かった頃、突然雨が降り出した。
練習も終盤だからと雨に構わず部員全員がサッカー場で練習していたのだが、いかんせん雨の降りが強く、気付けば全員ずぶ濡れになっていた。
それを見た顧問は呆れた様子だったが、早く着替えろと言っただけで器具倉庫に入って行った。

何と無くだが、あのとき先生は笑っていたような……。

「なあ、先生、笑ってたよな?」

軽く拭き終り体操服を脱ぎながら、ティトレイは隣にいる部員に尋ねる。

「ああ、そうだな。あれは絶対笑ってた」

「俺達に呆れたんだよ」

話しを聞いていたらしい他の部員も話しに混ざってきた。

「まあ、試合前に体調崩してもなぁ……」

苦笑混じりにそう呟いたティトレイは、まとわりつくインナーも脱ぐことにした。

「――んじゃ、俺、帰るわ。お疲れさん!」
 
ちゃっちゃと着替えて家に帰り、それから風呂にも入るかと思ったティトレイは手早くカッターシャツを着、乱雑に体操服やらタオルやらをバックに詰め込んで部室を出た。

生徒玄関の前に着くと、たいへん見知った顔があった。もう六時なのに珍しい……。
そう思いつつ、ティトレイはその知り合いの元へいそいそと駆け寄った。

「こんな時間まで珍しいな」

「……!ティトレイ!」

ティトレイの知り合い、ヴェイグ・リュングベルは、驚きを隠すこともせずティトレイの名を呼んだ。

「まだ帰って無かったのか?いつもならとっくに帰ってるだろ」

「帰ってたんだが、傘を学校に忘れたのを思い出して戻ってきたんだ」

そういうお前はどうしたんだと言われ、ティトレイはサッカー部の助っ人だと説明した。
ヴェイグは「ああ、そうだったな」と呟き、大量に雨を降らせるどんよりとした空を軽く睨んだ。

「……で、なんでここに居るんだ?傘は?」

傘を取りにきたと言うわりには、その手に傘は見られない。
尋ねると、ヴェイグは難しい顔をした。
 
「……たぶん、誰かが間違えて持って帰った…」

「……どーすんだよ」

「……どうしようか、考えてる」

「………」

傘が無いのなら、方法は一つしかない。
いつまでもここに居るわけにはいかないのだから。

「よし、帰るぞヴェイグ!」

「は?」

眉間に皺を寄せるヴェイグに構わず、ティトレイはヴェイグの指と自分の指を絡めて雨の中へ誘い込んだ。

「おい…!」

傘は無い。
雨が止む気配も無い。

だったら……。

「走って帰るっきゃないだろ!」





雨が降る。
傘はある。
だったら、するべきことはただ一つ。
愛しい人と相合い傘を。



雨が降る。
傘は無い。
だったら、するべきことはただ一つ。
愛しい人と雨の中へ。



冷たくても寒くても痛くても。
繋がる心と指先と掌が、温かくて柔らかい。

呆れてしまうけれど、なんだか楽しいこの状況。
土砂降りの中に響く彼の笑い声に、俺も釣られて笑うのだ。



「ヴェイグ!」

「なんだ!」

「楽しいな!」

声を張って会話する。
彼も自分と同じことを感じていたのか。
それだけで、やたら胸が騒ぐのだ。
 
「ああ!」





俺は、俺の傘を使った人に感謝する。

愛しい人と、こんなにも楽しい時間を共有することが出来ているのだから!





End



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