コードギアス
□初 体 験
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朝。イカルガの中の、カレンの部屋。
カーテンの隙間から、黎明の光が優しく漏れる。
まるで、激しかった夜を打ち消すように。
…カレンは自分と一緒に掛け布団に包まる彼の顔を見た。
間近にあるそれは、男性のものとは思えないほど繊細で、端整で。
すーすーと規則正しい寝息を紡ぐ唇は、数時間前までカレンの身体を蛭のごとく這い、快楽を与えていた。
生まれたときの姿で、抱擁しあったまま眠るときほど、幸せを感じる瞬間はない。
眠りに落ちる前までは、互いにぬるぬるしていたはずの肌も、嘘のようにしっとりとしていて。
本当は事後にシャワーを浴びたほうが良いのだろうが、彼の腕の中から出るのは、とても名残惜しいのだ。
…シャワーといえば、カレンはジムで身体を鍛えた後に浴びるシャワーが一番のお気に入りだった。
気持ちよく汗をかき、気持ちよくそれを洗い流す。
ああ、なんと清々しいことか。
想像しただけで、カレンは少しく表情を恍惚化させた。
「ぷっ」
突然顔の上方で、吐息が漏れる音がして、その吐息はカレンの紅色の額髪を退かし、つるりとした額を露にさせた。
吐息の持ち主は自身の腕をもぞもぞ動かし、カレンの髪をすくように動かし始めた。
その二の腕は、カレンの頭の下敷きだ。
「おはようカレン。どうして百面相なんかしてるんだ?面白い顔だけどな」
「いっ、いつから見てたの!?卑怯だわ!」
カレンは頬を赤らめ、ルルーシュの鎖骨に顔を埋めた。
くん、と匂いを嗅ぐと、ルルーシュの匂いと一緒に、温もりも鼻孔をついた。
癪だけど、…落ち着く。
ルルーシュは、顎にカレンの艶髪を感じ、芳しいその香りをゆっくり楽しんだ。
…心なしか、髪がのびたようだ。
「髪、少し伸びたな」
「そう、かしら…?…なら、切らなくちゃ…」
そんな他愛の無い会話が、幸せで。
二人の日常は、最早日常という言葉が似つかわしくないほど、ハードだった。
体力のないルルーシュなら尚のことだろう。
…体力のない、ルルーシュ。
……体力の、ない。
「それで?どうして百面相してたんだ?」
カレンは、無言だった。
シャワー。
体力。
「カレン…?んがっっ!!」
「ジム!!そうだわ、ジムよルルーシュ!」
カレンが突然顔をあげたので、ルルーシュの顎と激突してしまった。が、痛いのはルルーシュだけだったようで、カレンの瞳はキラキラと輝いていた。
「いだだだだ……じ、ジム…?なんで俺がそんなところに」
「体力づくりに決まってるでしょう!決めたわ、今日は二人でジムに行く!!」
いつになく張り切っているカレンに、ルルーシュは怪訝そうに眉を顰めた。
「決めたわ、じゃないだろ…高らかに宣言するな。俺は行くとは一言も言ってないぞ。それにこの姿でイカルガ内のジムに行ったら…」
「貸切にすればいいじゃない。私はね、どーしてもあなたに、ジム後のシャワーの心地よさを味わってもらいたいの!」
「なんだその理由は…」
ルルーシュは半ば呆れ顔で、…半ば挑発するように告げた。
「おまえが、手取り足取り教えてくれるならな」
言いながら、自由な右手でカレンの腰を撫でる。
カレンは何気なく、その手を外した。…ルルーシュは少しく残念そうな顔をした。
(かかった…!)
「臨むところよ!」
いつも行為にくたくたにされる私の気持ちを、少しは思い知ればいいんだわ…!
カレンは一人、……ほくそ笑んだ。
…この後、ルルーシュとカレンは、お互いに悪夢のような現実を迎える。
≪初 体 験≫