コードギアス
□blown up baby
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ゼロは非常に困っていた。
仮面の下で、今までにないほどの眉間の皺を、その美顔に刻んでいた。
「うぃ〜っく…ぐ、ふぇ、…えへへへへ〜」
ああ…酒臭い。
―…酔っ払ったカレンに肩を貸しながら、ゼロはよろよろとイカルガ内の自室に戻る道を歩いた。
≪blown up baby≫
今晩、黒の騎士団での宴が開かれた。
何かにつけて騒ごうとするイレヴン…いや、日本人の悪い癖といってしまえばそれまでだが、それなりに楽しい夜を過ごした。
賑やかに夜は過ぎ、明日もまた頑張ろうと、モチベーションが少し上がって床に就く予定だった。
が、……
「れろ(ゼロ)〜っばぁん、ずぁあああい!!」
「こら、カレン、暴れるな!」
…想像するだに恐ろしい酒量を飲んだカレンは、文字通りべろんべろんだった。
肩を貸しているので、カレンが暴れればゼロ=ルルーシュも振り回される。
やっとのことでゼロの部屋に着いたときには、ルルーシュはぐったりだった。
部屋には緑の髪の少女がいて、お気に入りのチーズ君のぬいぐるみを抱き、怪訝そうな目つきでこちらを見ていた。
「…その女、物凄く酒臭いな…まさかあれからまた呑んだのか?」
ルルーシュはゼロの仮面を取り外しながら、ひとつため息をついた。
「呑み直すと言って聞かなかったんだ。…C.C.、悪いがカレンを奥の部屋に―…」
「寝る。おやすみルルーシュ」
そう言ってC.C.は欠伸をしながら、自分の部屋へ逃げて行った。
「おい!コラ、逃げるな!!…ちっ…勘の良い魔女め…いつか殺してやる」
ルルーシュはもうひとつ、ため息を吐いた。
とりあえず、泥酔したカレンをソファに横たえる。
(こんなに酒癖が悪いとはな…)
「水でも飲ませるか…」
思い立ち、ルルーシュは添え付けの戸棚と冷蔵庫へ向かった。
グラスにミネラルウォーターを注ぐ。
ひんやりと冷たいそれを、カレンのところまで運ぶ。
「カレン、起きて…ほら、水を飲め。さっぱりするから」
軽く揺すって、カレンを起こす。
「ん…」という少々甘ったるい声が漏れて、とろんとした眼差しがルルーシュに向けられた。
「あぃがと…」
舌ったらずながらもお礼を言い、カレンはごくんごくんと一気に水を飲み干した。
ぷふ、と息を吐き、グラスを隣に座るルルーシュに渡す。
「さっぱりしたか?」
「うん…ごめん、もう一杯、くれるぅ…?」
「はいはい。…カレンは甘えんぼだな」
ナナリーとの生活のせいで、面倒見の良いルルーシュは、くすくすと笑いながら立ち上がった。
すると、ゼロの部屋の通信機が鳴った。
「なんだ…?」
いぶかしみながらも応答する。
通信は団員からだった。
<あ、ゼロ!夜遅くすみません…あの、紅月の行方がわからないんですが…>
「ああ。彼女なら、私が―…」
部屋まで連れて行くから安心しろ、と言おうとしたとき、カレンがルルーシュに歩み寄ってきた。
千鳥足である。
「ねぇ、っく…水まだぁ〜…?ちょ、おい、聞いてる、っのか、ルルー―…っん」
…ルルーシュの唇が、カレンの唇を塞ぐ。
二人の沈黙の間に、受話器から<ゼロ?…ゼロ?もしもし?…>という雑音が割り込む。
…別にキスが特別したかったわけじゃない。
カレンが、『ルルーシュ』と言ってしまいそうになったのがいけないんだ。
カレンがいつもより可愛く見えたとか、団員服が肌蹴けすぎだとか、谷間が見えすぎだとか、もちろんそんな理由じゃないさ。
「…ん、ぅふ…ぷは」
じゃぁ、舌を入れるなって?
―…入れたかったんだから、仕方がない。
ルルーシュはカレンの唇を解放した後、耳元に唇を寄せた。
「…少し、黙ってろ」
低い、低い声で囁く。
そして受話器に向かって話を続けた。
「すまない、紅月なら―…」
<察しまし…いえ、わかりました!!自分、二人の関係のこと、誰にも口外しません!ご心配なく!!ではっ大変失礼しました!!>
「あ、おっおい!!―…」
それきり、ぶちっという無機質な音があり、通信は途絶えた。
ルルーシュは本日何度目かわからないため息をまたひとつ吐き、受話器を置いた。