彩雲国物語

□初恋
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さらり、と眼前で音を立てながらぬばたまの黒髪が流れ落ちた。
その髪の持ち主が、今、自分に覆い被さっている。
 
 
 
 
≪初恋≫ 
 





そんなこと、未来永久になかったはずなのに、よほど盛大に運命が転んだのだろう。
こんなやつが、自分の夫だなんて。
こんなやつ、とは、鬼畜外道街道まっしぐら俺様大魔王のことだ。どう考えたって神様を恨むしかない。
そんなことを考えながら、百合は性格とは裏腹に真っ直ぐな彼の黒髪を見つめた。

夫。

そう。目の前の男は確かに『夫』だった。
籍も入れてるし。―…いや、本当に夫だろうか。
逆に、籍を入れてるだけ、とも言える。
それと、こうして情事をするだけ。
(夫って、なんだろ…)
改めて考えると、この男が夫とは、なんだかオカシイ気がした。
 
悶々と考えていると、男の顔が降りてきた。
―…百合はふい、と顔をそらした。
 
「何を馬鹿なことをしている。こっちを向け」
 
「…ごめん。ちょっと今日は、一人にさせて…あんま気分良くないから」
 
そう短く告げると黎深の胸を押し、寝台から降りた。
無言のまま、扉口に歩いていき、「じゃ、おやすみ。…早くねなよ」とだけ言い、ぱたん、と扉を閉じる。
そして自室へと足を進めていった。
 
 
 
 
 
 
  
 
 

 
 
 
 
 
   
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