彩雲国物語
□愛しさを示すもの
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++前書き++
秀麗は御史台での仕事を終えた後、毎晩劉輝のいる後宮へ行っている、という設定です。ちなみに両想いです。
秀麗はいつも、その日の愚痴や悩みごとなどを伝えますが・・・
《愛しさを示すもの》
コンコン、と窓の方から音がして、劉輝は窓辺へ向かった。
ひょこっと小さな頭が覗く。
「今晩は。いれて?」
声の主―秀麗は少し悪戯っぽく笑うと、差し伸べられた手に掴まる。
劉輝は秀麗を軽々と抱き上げ、部屋へ入れた。
毎晩繰り返される行為なので、動きが滑らかだ。
「何か飲むか?」
「ええ、頂くわ」
そう言うと秀麗は卓に着こうとしてぎょっとした。
「な・・・何コレ・・・」
そう言うのも当然、卓の上は書翰やら何やらでごちゃごちゃだった。
「ああ・・・すまぬ。まぁ気にするな。どっか別の所に腰掛けてくれ」
「ま、まぁいいけど・・・」
何だろう?やましいことでもあるのだろうか。
不審に思いながらも、秀麗は寝台に腰掛けた。
・・・―正直、懐かしい、と思った。もう遠い昔のことのようだ・・・
後宮に偽貴妃として入り、劉輝と―夢を紡いだ時間。
眠れないと言う彼に、毎晩二胡を弾いて・・・
「秀麗?」
―今はもう、立派な王となった彼の声で、秀麗は我に返った。
「え?あっ・・・ごめんなさい・・・なんだか懐かしくて」
「・・・そうだな」
昏君のふりをしていたあの頃は、まだこの世界の広さを知らなかった。
目を開けば、たくさんの人が笑いかけてくれた。
兄上以外の人に、幸せをもらった。
今目の前にいるこの少女は、本当の愛も教えてくれた。
・・・・余は、幸せなのだ、と心の中で呟いた。
「さぁ。今日もいろいろと聞かせてくれ、秀麗」
―愛しい時間の幕開けの合図を、彼は口にした。