*under*

□氷菓子【彩雲国物語】
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「持ってきたぞ」
 
少したった後、黎深がずかずかと戻ってきた。
手には盆、その上には氷菓子が乗っている。
黎深は百合が横たわる寝台に腰掛け、彼女を見た。…次は何をねだられるんだか。
 
「ね、あーんしてくれる?あれ夢だったんだー」

「…変な夢を持つな」
 
口移しではないのか…と少しがっかりしている自分には気付かないふりをする。 
 
「…だって、私の親、そんなことしてくれなかったから…他にしてくれる人もいなかったし」
 
黎深はハッとしたように百合を見た。
どこか寂しそうな、百合と目が合った。
 
「ね、黎深。わかってる?君は私や邵可様に甘えられるけれど…私は君にしか、甘えられないんだよ?」
 
黎深は少し目を瞠った。
何か言おうとした刹那、先に百合が口を開いた。

「ううん、違う。私は、君…黎深に、黎深だけに甘えたいの」
 
黎深はいつになく素直な百合にうろたえつつも、内心は狂喜乱舞であった。
だが、こういうときの対処法は知らない。どうすればよいのだ…!
見兼ねた百合は、笑ってしまった。…こういうとこ、可愛い。 

「ふふ、急にごめんね。さっ、わかったら早く、あーんして、あーん。溶けちゃうよ」
 
黎深は口を開けて目を瞑り、待機態勢の百合を見た。
…やるしかないか。
黎深はさじでそっと氷菓子を掬った。
ゆっくりと百合の口元へ運ぶ。零さないように、そっと。
百合は口の中に何か入ってくる気配がしたので、はむっと口を閉じた。
冷たくて甘い氷菓子の感触が口いっぱいに…
 
「ん?あれ?」
 
百合は目を開けた。
なんたって、口に入ってきたのはただの空気である。つまり、何も入っていない。
では氷菓子はどこに…?
…黎深の口の中であった。
 
「ちょっと、なにそれ。なんのネタ。シャレになってないよ。酷いじゃんかー!鯉みたいに口開けて待ってたぼくの身にもなれよー!」
 
「やかましい」
 
そう言って黎深は、もう二、三度掬い、たくさん頬張った。
 
「なにしてんのさ!きみばっかズル―…っ」

最後まで言い終わらないうちに、口を塞がれた―…黎深の唇で。

「んんっ…ん…む…」

ぐいぐいと押し入られるように口を開けられ、繋がった百合の口の中に氷菓子が流れて来た。

「っ!?……や…ぁっ」

突然のことにびくりと身体を震わせ、百合は黎深の肩を押し、引き剥がした。
だらだらと口端から氷菓子の溶けた液体が流れ出る。
 
「…っ何、すんのっ…冷たいよ…」 
 
そう言いつつも身体が火照ってきている。
そしてその身体を這うように滴る、冷たい液体。
百合はそれを隠すように、自分の身体を抱きしめた。
 
「嬉しいくせに、何を言ってる」
 
「う、嬉しくなんかないもん!君のせいで衣汚れるしべたべただし…っ」
 
「ふん、淫らな格好だな」
 
ぎし、と寝台が沈む音がする。
黎深はごく自然に、百合の上に覆いかぶさった。
 
「み、みだらで悪かったね…」

百合は顔だけ背けて、しかし抵抗はぜずに、黎深と寝台に挟まれた。 

「別に悪いとはいっとらん…もういいだろ?」
 
「………ぃぃょ」
 
「聞こえん」
 
百合はゆっくりと顔を黎深に向けると、そっと頬に触れた。
頬を赤らめて、『ミダラ』な姿で。 

「………抱いて」
 
予想外の言葉に瞠目しつつも、黎深はふっと笑った。
 
「お前に決める権利は無いからな。…私がしたくてするんだ。勘違いするなよ」
 
百合はその言葉の真意を汲み取り、一層頬を赤らめたが、何を言うより先に黎深が行動を起こしていた。
 
 
 
  
 
  
 
  
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

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