★小説〜伯妖連載〜★

□このままずっと……
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「リディア奥様、今朝ちょっと使用人達の話を聞いたことを奥様にもお知らせしようと思いまして」
「何かしら?」

今からお茶会に向かう馬車の中でリディアは、恥をかかないようにと、頭の中で予行演習をしていたところだった。
しかしケリーが、リディアに何かを伝えたがっているのが分かったので、彼女の話を聞くことにした。

「はい。じつは……、グレルリン公爵夫人のことですが、あたしも遠くからですが、何度がお目にかかったことがございますが、以前と、その……何と申しますか、少し貴族らしからぬ雰囲気になられたような気がしまして……。昨日のただならぬ香水の匂いや、異常までの紅茶やお菓子のおかわり。それになんと言っても、ドレスや身につけている装飾品が流行遅れのものでした」

それはリディアも見た瞬間そう思った。
パーティーやお芝居にエドガーと一緒に出掛けた時、何度か公爵夫人を見かけたことがあるが、ドレスや身につけている装飾品は流行りのものを取り入れ、質のよい香水の匂いが漂い、食事のマナーも上流階級に似合ったものだった。
昨日の彼女は随分と変わりようだ。

「それに最近のグレルリン公爵家は事業に失敗をしたらしく、相当な借金を抱え込んでいると耳にしたことがありますわ」
「えっ!」

それは初耳だった。
侍女のケリーすら知っていることが、自分は知らなかった。
これで伯爵夫人だと言うのだから、他の人から何を言われたとしても、仕方のないことかもしれない。
エドガーに恥をかかせないためにも、色々な情報を頭にいれておかないと。
そう思うのだが、学ぶべきことがたくさんあり、とてもじゃないが、そこまでは無理だった。

「ケリーは……、知っていたのね。あたしももっと、色々なことに視野を広げないといけないわね」

ケリーには笑顔で言ったつもりが、やっぱり表情がかたかったのか。
ふっとケリーが、優しい笑みを返してくれた。

「リディア奥様。あたしもこの話は今朝、トムキンスさんから聞いたばかりです。それにあたしは何でも完璧な侍女ではございません。ですから色々とご迷惑をおかけするかと思いますが、これからもよろしくお願い致します」

ペコリとリディアに向かって頭を下げた。

「ケリー……」

ケリーの頭をあげさせ、彼女の膝に置かれた手をぎゅっと握りしめた。

「あたし……も、あなたに色々と迷惑をかけるけどよろしくね」

ケリーは笑顔で応えて、こくんと頷いてくれた。
侍女がケリーでよかった。
どこを探したって彼女ほど、リディアのために尽くしてくれる人はいないだろう。
リディアの今の表情は心から笑顔になった。
そして今から向かおうとしている、お茶会にしても、不安が消え去っていた。




                   
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