★小説〜伯妖現代版〜★
□7〜想いを伝えたくて……(前編)〜
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ロンドンからバイクで、1時間ちょっとぐらいで目的の場所に着いた。
先程まで騒音がうるさい所を通って来たはずなのに、ロンドンからちょっと足を延ばせば、こんなに自然豊かな場所がある。
リディアはバイクから降りると思わず、背伸びをしていた。
「ほんと。ここへ来るとほっとするよ」
先程までバイクを運転していた人物が自分と同じく、背伸びをしていた。
リディアは思わず、くすっと笑う。
「やっと、笑ってくれた」
「えっ?」
「僕と一緒にいる時のきみって、あまり笑っている所みたことがないからさ」
リディアをみて微笑む彼の表情が眩しい。
「そ、そうかしら?」
思わず顔をそらしてしまう。
そしてすぐに後悔をしてしまう。
ああ……、またそっけない態度になってしまっちゃった。
自分の可愛げなさに、ため息をついてしまう。
「エドガー様、ランチの用意が出来ました」
いつの間にか、リディア達の後ろに褐色肌の少年が立っていた。
童顔にみえるせいか。
青年というよりは、どちらかと言えば、少年といった感じだ。
エドガーの身の回りの世話をしているらしいその少年は、リディアと同じ学校の生徒だがエドガーと同じく、あまり授業に出ている所を見たことがない。
リディアにとってエドガーも謎だが、その少年も同じくらいに謎だ。
頭を下げて立ち去ろうとする所をリディアは、慌てて呼び止める。
「あっ……、待って!」
その声に振り向き少し、首を傾げられる。
その仕草にリディアは少し、くすっと、笑ってしまう。
「……何か、変ですか?」
「あっ……ごめんなさい、気にしないで。以前あたしが襲われた時助けてくれたでしょ。その時のあなたってちょっと怖い人だなって思ったけど、今のあなた見てたらちょっと、可愛いかな……って、思って」
「可愛い、です……か?」
少し不思議そうな表情を浮かべて、リディアをじっと見ている。
その様子にリディアは。
あ……、どうしよう。
変な女の子だと思われたかも。
「ご、ごめんなさい!可愛いだなんて、男の人に対して失礼よね。こんなことを言うために呼び止めたんじゃなくて、……この前ろくにお礼も言えなかったから、助けてくれてありがとう」
「いえ……。当然のことですから」
にこりと笑いもせず無表情だと思ったが、口元が少し緩んだような気がした。
「それでは失礼致します」
再び頭を下げるとそのまま、去って行った。
可愛いと言ったのが気に障っていないだろうか。
余計なことを言った自分に後悔する。
こんなんだから、人付き合いがうまくいかないのかもしれない。
「ちょっと、妬けるな……」
一部始終を見ていたエドガーが、リディアのそばに近寄る。
ちょっとだけリディアは、エドガーから離れる。
彼がそばに来ると心臓の音が乱れる。
それをエドガーに気づかれたくないから、彼から距離をとる。
そんなリディアの想いに気づいていないであろうエドガーは、リディアが離れたぐらい、なんとも思っていないだろう。
「レイヴンが僕以外にも、あんな表情するの見たことがなかったから、驚いたよ」
エドガーも彼の微かな表情を、見逃していなかったみたいだ。
「もしかして、きみのことが好きなのかな……」
はあ?
初めて今日言葉を交わした相手に、どこをどうしたらそんな考えになるのか。
そんなわけないじゃない!
「ちょっ……ちょっと!どうしてそうなるの?男の人がみんながみんな、あなたみたいな人だとは限らないじゃない」
「それっ……て、女性なら僕は誰でも好きになるってこと言いたいわけ」
話し方は冷静だが、あきらかに怒っているのがわかる。
さすがのリディアもあっと、口を手でおさえて謝らなきゃと思ったが。
口より先に足が動いていた。
どうしよう。
これじゃあ嫌われても仕方がないわよね。
彼の前からリディアは、逃げることしかできなかった。