★小説〜伯妖現代版〜★

□9〜彼女達の苦悩な日々(前編)〜
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ロンドンに来たら1度は観てみたいと思っていた本場のミュージカル。
リディアはロタと2人で、ピカデリー・サーカスにあるハー・マジェスティーズ・シアターに来ていた。
この周辺には沢山の劇場があり、観光客の姿も見かける。
服装はどうしようか少し迷ったが、女同士で行くから普段通りにしようと、ロタが言ったのでそれに賛成した。
平日の昼間だったが、客席はほぼ満員だ。
2階席でもとれたのがラッキーだ。

「結構大きな劇場なのね。あたしミュージカル観るの初めてだからなんだか、どきどきしちゃう」

田舎者と思われるかもしれないが、思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
やっぱりパーティドレス着てくればよかったかな。
割合的にはどちらかといえば、そちらの方が多いかもしれない。

「あたしはミュージカルじゃないけど、何年か前にじいさんにオペラに連れて行かされてさ。何歌っているかさっぱりだったし、途中で寝ちゃたよ」

陽気に喋るロタを見て、服装で悩んでいたのがどこかへと、消えていた。
お金持ちのお嬢様なのにそんな素振りもみせず、男まさりの気さくな性格の彼女だからリディアは、友達になれたのかもしれない。

「あ……リディア、始まるよ」

劇場内は暗くなり幕があがる。
今日リディア達が観に来たミュージカルは、ロングラン公演を記録しているオペラ座の怪人だ。
物語は19世紀パリが舞台で、若手歌手クリスティーヌに怪人が恋をする話しだ。
豪華な衣裳や、きらびやかな舞台装置にリディアは圧倒されっぱなしだ。
やがて終盤に近付くと涙がぽろぽろと流れ、まさしく、ハンカチなしではいられないとはこのことだ。
やがて舞台が終わり幕がおりると、客席からは拍手喝采とともにアンコールの声も響きわたる。
リディアとロタの2人も同じように席を立ち、アンコールと、手を叩く。
それに応えるかのように幕があがり、出演者一同が再び舞台に立ちお辞儀をする。
またまたリディアは涙がぽろっと流れる。

「……と、リディアまた、泣いてんのか」

そういうロタも少し涙目だ。

「だって、だって……凄くよかったんだもの。最後クリスティーヌとラウルが去った後、2人をせつなげに見る怪人が可哀想……」

そんなリディアにロタがそっと髪を撫でる。

「あんたは怪人じゃないんだからいつだって、エドガーに逢えるじゃん」

どうしてここにエドガーの名前が?
と思ったけど、今はこの夢のひとときの余韻を少しでも長く味わっていたかったので、ほんの短い時間だが、リディアは目を閉じていた。




                     
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