★小説〜伯妖現代版〜★
□11〜秘密の告白〜
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外を歩けばかさかさと、落ち葉を踏む音が耳に響く。
リディアがロンドンに来て初めて見る光景だ。
季節は秋から冬に変わろうとしていた。
「ねえ、今度のパートナーもう、決まった?」
「俺今からアプローチかけてんだよ」
最近学校の敷地内を歩いていると、ちらほらと、そんな会話が耳に入る。
「ねえ、ダンスパーティーって、やっぱり会場までパートナーと一緒に行かなきゃいけないの?」
「まあ…必ずしもそうとは決まっちゃいないけど、相手いなきゃ1人で踊るしかないだろ。それって、虚しくないか?」
確かにその通りかもしれない。
かといって、ダンスパーティーに行って、壁の花も寂しいものがある。
みつ編みを1つにまとめたリディアと、髪をくくるものにあまりこだわらないロタとは性格は正反対だが、なぜか気が合う。
2人は昼の授業が終わって今からケーキを食べに行く予定だ。
「あ……あ、あたし今年チャリティの実行委員やんなきゃいけなくなってさあ。めんどくさいよ」
ロタは両腕を頭の後で組んで、ぶつぶつと、文句を言いながら歩いている。
学校の創立記念日も兼ねたチャリティバザーとダンスパーティーは、この学校の伝統行事になっている。
チャリティもダンスも必ず実行委員を誰かがしなければいけないので、毎年なかなか決まらない。
基本は立候補だが、みんながあまりしたがらないため、最終的にはくじ引きで決めている。
「ロタもしかして、誰かと代わってあげたんじゃないの」
リディアはロタの表情を見てふっと、そう感じた。
「……うん、まあ……そう言うことになるか……な。メアリのお袋さん入院してるの知ってるだろ。歳の離れた妹の世話しなきゃなんないからさ。実行委員なんかしてる場合じゃないだろ」
ロタらしいと思った。
いっとき皆から無視され続けていた日々があったのにもかかわらず、やっぱり困っている人がいればほっておくことができない。
そんなロタがリディアは好きだ。
「じゃあこれから忙しくなるわね」
リディアはくじ引きであたらなかったので、実行委員にはならくてすんだ。
「でもダンスパーティーの実行委員よりましだよ。あっちの方が忙しいし、パーティー出席してるのに、ダンスしている暇がないほど忙しいみたいだからさ」
それはリディアも、噂で聞いたことがある。
去年この時期はまだ、スコットランドにいたから詳しいことは知らないが、校内を歩いていたら嫌でも耳に入ってくる。
「あっ!エドガーだ」
その名前に思わず反応をする。
彼も門に向かって、リディア達のだいぶ前を歩いていた。
エドガーも外出するのだろう。
「ふう……ん、なるほどね」
リディアの赤く染まった頬を見てロタは、にやにやする。
「パーティーに誘ってみたら」
「えっ……!」
今ここで!
リディアは急にあたふたとしだす。
「あいつ今1人だぞ。ほらチャンスだ」
腕をがしっとつかまれて、強引に引っ張られる。
「え……と、ちょっと!待って……」
リディアはなんとかその場で足を踏ん張ったが、ロタの方が力が強いので、結局エドガーのところまで引っ張って連れて行かれた。
「やあ、きみ達も外出?」
リディア達の存在に気付いたエドガーは、笑顔になる。
夏に比べ日照時間が短いイギリスは、まだ午後3時をまわったところだが、もうすでに太陽が落ちかけていた。
その光は今ちょうど、エドガーの金髪の髪にあたっていた。
本当に、綺麗……。
リディアがどんなに望んでも手に入らないものを彼は、当たり前のように持っている。
「まあね。……ってことはあんたもどっかに行くのか?」
「うん、そんなにたいした用事じゃ、ないけどね」
そう言うと、エドガーは前髪をさらっと、かきあげた。
そんなエドガーを見ると、どきりとする。
悔しいけど、どんな仕草をしても彼なら絵になる。
そんなリディアにロタはしびれをきらしたのか。
リディアがなかなか話さないのでロタが、膝でつつきはじめる。
早く、ダンスパーティーのお誘いをしろとの合図だ。
「え、え……と、あたし……」
やっと口を開いても、すぐには言えない。
「何?リディア」
エドガーはにこっとリディアに笑いかけて、辛抱強く待ってくれている。
ああ、早く言わなきゃ!
エドガーだって今から出掛けるんだから。
そうよ。
もしかして、デートかもしれない。
デート……?
だったら、パートナーだって、決まっているよね。
今、言ったところで……。
「ねえ、リディア……」
「あたし……あたし、ダンスパーティーの実行委員に、選ばれたの!」
リディアは、エドガーが何かを言うより先に口を開いた。
リディアの隣にいたロタは驚きの表情と、何かを言いたげな表情と両方伺えた。