★小説〜伯妖現代版〜★

□12〜彼との初めてのキスはせつなく悲しくて〜
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「ちょっ……離せ!離せよ!」

ロタの手首はポールの手につかまれたまま、パーティー会場の外まで連れて行かれた。
ポールの手を何とか振りほどこうとするが、無理だった。
彼は思ったよりも力が強い。
見た目とは違う。
ああ、やっぱり男なんだなと、つくづく思い知らされた。
そしていきなり、ばっと離されて、手首が自由になった。

「ごめん悪かったよ。女の子に対してこんな、乱暴な扱いをして」

ポールはすまなそうな目でロタを見た。

「乱暴って……、ポールはいつだって優しいよ。それにあたしはそこらの女と違って、丈夫にできているからこんなの、平気平気」

ロタは笑顔で言って、つかまれていた方の手をぶんぶんと振り回す。
それでもポールは心配そうに、ロタを見つめた。
確かに、手首をつかまれている時は少し痛かったが、でもそんなに腫れているわけでもない。
今は痛みすら感じない。
もしポールが本気になれば、ロタの腕ぐらい簡単にへし折れるだろう。

「……でも、やったのにはかわりないよ」

今度はさっきのとは違い、そっと、まるで割れ物でも扱うように、ロタの手首に触れた。

「ごめ……ん、ロタ。痛くない?」

ポールの顔をまともに見れないロタは、こくんと頷くことしかできなかった。
今までこんなに自分のことを女として見てくれてたのは、ポールだけかもしれない。
こんなに優しい言葉をかけられたら、あたしじゃなくても好きになってしまうよ。
廊下で、パートナーとしてポールを誘っていたあの女の子にも、こんな感じで優しく言葉をかわしているのだろうか。
そんなロタの気持ちを、知ってか、知らずか。
ポールはロタに向かって手を差し出した。

「今日は僕のパートナーとして、一緒に踊ってくれませんか?」
「えええっ……!」

思わず驚きの声をあげてしまう。
そんなロタにポールは少し照れたように聞いてきた。

「そんなに驚かなくても……。僕とじゃ嫌?」
「嫌っていうよりか……、ポールはダンスに誘われていたんじゃないのか?その相手と踊らなくていいのか」
「どうして誘われたって知ってるの?」

ロタはあっと、声を出す。
あの廊下で立ち聞きしていたことバレたかも。
確かにあの時はなんとか会話を聞こうとしたが、距離があったから聞き取れなかった。

「あ、あの時は……会話は聞いてないぞ。なんとなく、そうっ!雰囲気でそう思ったんだ!」
「ふう……ん、雰囲気ねえ。じゃあ見てたんだ」

なぜかポールはにやにやと、笑っている。

「あー……もう!そうだよ。あんたの言う通り立ち聞きしてたよ」

今のロタはおそらく顔が真っ赤になっていることだろう。
悔しいけど結局ポールに全部、自白することになってしまった。
そしてさっきまでの彼の表情とは違って、がらりと変わった。
どきっと、させられた。

「断ったから……」
「えっ?」

ぽつりと呟くと、ぐいっと手を握られて再び会場の方へと引っ張られて行く。

「ちょっ、ちょっとポール」
「ごめん。ロタの返事待ってからにしようと思ったけど、時間がないから。急いで」

建物の壁に設置されている時計を見ると、あと15分でパーティーは終わりだ。
2人は慌てて、走り始めた。
ロタはこのどさくさ紛れにギュッと、手を握りかえした。



                     
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