★小説〜伯妖現代版〜★

□13〜あなたが好き〜
1ページ/9ページ



唇が熱いのは、シャワーのせいじゃない。
リディアは指で、唇から首へと触れていく。
頭から熱いお湯が流れても、昼間の気憶が消えない。
あれから彼のことばかり考えている。
キュッと、蛇口をひねる。
そばに掛けていたタオルで頭と体を巻きつけ、シャワールームから出る。

「リディアも飲む?」

ペットボトルに入ったミネラルウォーターを、リディアに差し出してくれた。
先にシャワーを浴びたロタは、もうすでに着替えが終わっていた。

「ありがとう」

リディアはそのまま勢いよく、喉に流し込んだ。
半分以上残っていた中身があっという間にカラになった。

「そんなに喉渇いてたのか」

さすがに全部飲むとは思っていなかったらしく、ロタは呆気にとられた表情をうかべていた。

「あ……ごめん。ロタの分なくなっちゃったわね」

いくら喉が渇いていたといえ、全部飲んだのは申し訳がないと思ったリディアは、謝った。

「いや。あたしはもういらなかったから別にかまわないよ」

気にすんなよと言われ、肩をぽんっと軽く叩かれた。
ほんのさりげない彼女のこの動作が、リディアを安心させてくれた。
手早く着替えを終えたリディアは、髪の毛をドライヤーで乾かす。
そして、いつものように慣れた手付きでみつ編みを1つに編み込み、腕にはめていたシュシュで最後にくくろうとした時。
あれっ、ない?
落としたのかな?
下に落ちてないか探すが見当たらない。

「ん?どうした、リディア」
「シュシュ探してるんだけど……」

ロタも一緒になって探してくれたが、みつからなかった。

「ここじゃなく、来る途中で落としたのかもしれないぞ」

そう言われてみれば、シャワーを浴びる前にはずしたかと言われれば確かではない。

「うん……そうかもしれない。探してくれてありがとう、ロタ」

彼女の視線は、リディアの髪のほうにいっていた。
髪に何かついているのかなと、気になったので手探りで触っていると。

「いつもくくってばっかりだしさあ、髪おろしたら」
「えっ……?」
「こんなに綺麗な髪してんるのに、くくってるなんてもったいないよ。ほら、ここ座って」

リディアはそのまま椅子に腰を掛ける。
ロタの手により、先程のみつ編みがほどかれる。
そしてゆっくりとブラシで髪をときはじめた。

「ほんと手触りすごくいいし、見てても気持ちがいいよ」
「それ褒めすぎよロタ。でもこんな鉄錆色の髪にお世辞でも褒めてくれてありがとう」
「お世辞じゃないよ。それに鉄錆色って言うけど、あたしは1度だって思ったことないから。もっと自分に自信もちなよ」

いつも自分にたいして自信がもてなかった。
母の髪は金髪なのにどうして自分だけ。
瞳の色だってそうだ。

“絹のようにさらさらしている”

あんなこと初めて言われた。
あの時の自分は素直じゃなかったな。
少しでも自分を変えようと思いきって、ロンドンに来たのに。

「あた……し、これからたま……にだけど、髪おろしてみようかな……」

聞こえるかわからない声でぼそっと言ったのに、ロタの耳には届いたみたいだ。

「うん!そうしなよ」

彼女の、にっと笑った時にできるえくぼを見てると、こちらまで思わず笑顔になる。



                     
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ