★小説〜伯妖現代版〜★

□14〜知りたかったこと(前編)〜
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“あなたが好き”
ずっと、エドガーの前で言えなかった言葉。
でも彼は何も言ってくれない。
相変わらずリディアとは、目をあわさない。
沈黙が流れる。
この空気に耐えきれなくなったリディアは、口を開いた。

「……あ、あの……エドガー……」

少し声が震えながらもなんとか、言葉に出した。

「きみは、僕のどこが好き?」
「えっ?」

思ってもいない言葉が返ってきた。
どこって……。
そういえば彼のどこが好きなんだろう。
リディアにはエドガーのここが好きと、言い切れるところがない。
彼と目があう。
今度はすぐに目をそらさないでくれた。
むしろ、リディアをじっと見ている。
灰紫の瞳に自分がうつっている。
それほど、エドガーとの距離が縮まっていた。
彼の指が顎に添えられた。
ドキッとしたのもつかの間。
顎をグイッと上に持ち上げられると、彼の冷たい笑みを見てしまった。
ゾクリと鳥肌がたつ。

「答えられないみたいだから、僕が代わり言ってあげようか。きみが好きなのは僕の財産か見た目?結局、きみも同じなんだろ」

そんなことを言われるとは思わなかった。
告白した自分に、泣きたくなった。
今リディアのほうが、彼から逃げたいぐらいだ。
エドガーにとって、リディアからの好きは、迷惑なだけなのかもしれない。
そう思ったら金緑色の瞳からつつっと、涙が流れた。

「……気がついたら好きになってた。これじゃあ駄目?それと、好きなところは1つに決めないといけないの?」

キラキラと輝く金髪が好き。
灰紫色の瞳も好き。
優しい笑みを浮かべる彼だって。
それにどんな時だって、リディアを助けてくれるところだって好き。
他にもたくさんある。
だからどこが好きって、決められない。
もっと見つめていたい。
そう思ったが。
エドガーはまた、リディアから目をそらした。
そしてそれと同時に、エドガーはリディアから離れて、そのまま逃げるように早足でキッチンから出たところ。
ちょうど電話をおえた父と、エドガーは鉢合わせになった。

「あれっ?もう帰るのか」
「はい……。今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ。料理まで作ってもらってありがとう。今度はできれば3人でゆっくりと食事でもしよう」

彼は軽く頭を下げるとそのまま、玄関へと向かった。
あれ以来、エドガーはリディアにたいして笑顔を見せてはくれない。
今まで当たり前のように見てきた笑顔が今は、懐かしく思える。

「3人で笑顔で食事が出来る日が来ればいいね」

父はさっきの内容を、聞いていたのだろうか。
聞いていたとしても、リディアを決して問いつめるようなことはしない。
リディアから言ってくれるのを待っているのかもしれない。

「そう……ね。そうなればいいけど」

リディアは父に甘えるように、腕をからませた。
そんなリディアに父は少し、照れた表情をみせコホンと、軽い咳払いをした。



                      
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