★小説〜伯妖現代版〜★

□3〜彼の忘れたい過去の一部(後編)〜
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「エドガー、お父さんにご挨拶をしなさい」
「……こんにちは」
「大きくなったな。学校は楽しいか?」
「はい……」

1年に数えるぐらいしか会わないから、いつも同じ会話の内容だ。
確かに血のつながった父親だが、母は正妻ではないので、籍は入ってはいない。
籍は入ってないから、父親とも呼べないかもしれない。
昔母が、父の家の使用人として働いていた時に、父に見初められたと、母に聞いたが、そう言えば聞こえはいいが、代々続くジュエリー会社の社長が、たかが使用人に本気になるとは思えなかった。
それに父にはもう、正妻がいた。

「それでは、そろそろ失礼するから」

ソファから立ち上がりもうすでに足は、玄関に向かっている。

「あなたせっかくいらしたのに、夕食でも……」

母はなんとか引きとめようとするが、

「いや今日は今から、会議があるからまた来るよ」

母の頬にキスをする。

「ええ、お待ちしてます」

少し、淋しそうな笑顔だ。

「じゃあな、エドガー」
「さようなら、お父さん」

ばたんとドアは閉まり、しばらくしてから母はエドガーの方に振り向く。

「エドガー今日は母さん、ケーキを焼いたのよ。そういえばあなた、学校から帰って来て手を洗っていないでしょ」

いつものエドガーの大好きな、母の表情に戻っていた。

「あっ!いけない、忘れてた。洗ってくる」

慌てて洗面所に向かう。
父のおかげで普通の一般家庭に比べたら、何不自由なくエドガーは暮らしている。
彼は手を洗い終えて戻ってくると、テーブルには焼きたてのチョコレートケーキに、今淹れたばかりの紅茶、そしてエドガーの分のオレンジジュースも置いている。

「さあエドガー、食べましょ」

エドガーは席に着いてフォークをそのまま、ケーキに突き刺して口に運ぶ。
その様子を見ていた母は笑顔で応える。
輝く金髪の髪に人目を引く容姿を持ち合わせている母は、エドガーには自慢だった。
彼の容姿も母譲りだった。
優しく、いつも笑顔を絶やさない人。
だから父親が家にいなくても母と2人で、十分に幸せだった。
できればこのまま、そっとしてほしかった。
あの女がこの家に、乗り込んで来るまでは……。
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