★小説〜伯妖現代版〜★
□5〜真夏の海は恋の予感?〜
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リディアがこの学校に来てから、初めての夏期休暇がもうすぐ、迎えようとしていた。
少し前までコートを着て、肌を隠すように歩いていたのに、今は暑さのためにみんなすっかり、肌を出して歩いている。
「なあリディア、もうすぐ長期休暇に入るけど、何して過ごすんだ?」
コーヒー色の髪の少女が、口にケーキを運ぶ。
「う……ん、そうね。相変わらず花いじりかな……」
「リディアの家、花屋さんだったよな。あっ、この前もらったポプリ部屋に置いてるんだけど、なかなかいい匂いがするな」
「本当、気に入ってくれてよかった。時々かき混ぜてあげてね」
家が花屋のため、リディアは小さい時から、花を使って色々なことをするのが結構好きだ。
自分の作ったポプリを身内以外にあげるなんて初めてだったから、気に入ってもらえるか不安だったが、ロタの喜んだ表情を見てリディアの表情にも笑みがこぼれる。
性格の正反対の2人だが、ロタのさっぱりとした所がリディアは、変な気をつかうこともなく、友達と呼べる人ができたことでリディアは、改めて、この学校に来て本当によかったと、思った。
以前はルシンダがこの学校に来て初めての友達だと思っていたが、今から思えばそう自分に、言い聞かせていただけだったのかもしれない。
新しい学校に来て今までの自分を変えたかったから。
誰でもいいから友達を作らないと。
あの時のリディアは、なんとかルシンダに嫌われないようにするために、必死だったのだ。
ルシンダからすればリディアの存在なんて、どうでもよかったのだろうか。
“誰も淋しがらないと、思うけどね”
あの言葉はまるでリディア本人に、言われているような気がした。
前の学校では自分は本当に、いてもいなくてもいい存在だったからだ。
でも今は……。
「リディア、このケーキおいしいよ。食べてみろよ」
ロタはケーキを一口サイズにフォークで切り分けて、リディアの口元まで運ぶ。
そのまま口の中にケーキが入り、甘さが広がっていく。
「うんっ、おいしい」
この何気ないことでもリディアは、嬉しく感じる。
「でしょ」
ロタの笑顔が今、リディアに向けられている。
あっ……。
ロタって笑うと、えくぼができるんだ。
ロタに対してまた、新しいことが発見できて何もかもが新鮮だった。
「そのケーキも美味しそうだな。一口ちょうだい」
「うん、いいよ」
さっきロタが自分にしてくれたように、リディアも同じく、彼女の口の中にケーキを運ぶ。
「ん〜、このチョコレートケーキも美味しい」
ロタは頬を手のひらでおさえて、ご満悦だ。
「でもその、フルーツタルトも美味しかったわよ」
「じゃあこのチョコレートケーキ、もう一口だけ……」
あと少しだけしか残っていない、チョコレートケーキをロタはフォークでさす。
「あ……!それは駄目」
リディアはケーキの入った皿を、自分の方に引く。
「いいじゃんか」
「もう……、ロタったら」
結局リディアはチョコレートケーキを、ロタにあげた。
2人はお互いを見て、笑顔になる。
女の子とのやり取りが、こんなに楽しいものなんて。
ロンドンに来て初めてリディアは、知った。
「この後、観覧車乗りに行こよ」
「観覧車乗るなんて、久し振りだわ」
「よっし。決まり!」
ロタと2人で地下鉄に乗るために、店を出る。
スコットランドにいた時と違い、あたしのことを必要だと思ってもらいたい。
もういてもいなくてもいい、存在だけにはなりたく、ないから……。