★小説〜伯妖連載〜★

□そばにいるだけで……
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ファーガスは屋敷に着いてすぐに自分の部屋へ向かう所、パトリックに呼び止められた。

「頭が痛いから話しがあるなら、明日にしてくれないか」

ファーガスは頭を押さえながらパトリックの前を通りすぎたとき、

「ロンドンは、楽しかったですか」

一瞬、振り返ってパトリックの顔を見るが、また前を見る。

「……父上に、報告するのか?」
「私は氏族長からあなたの行動について報告するようには、言われてませんから」

ファーガスはあまり、パトリックのことは信用していないが、自分とは違って頭はいい。
それに、冷静な判断もできる。
あの時、リディアにキスをしようとしたが、彼女は逃げるように船に乗って行った。
彼女の姿が見えないことを確認してからファーガスも、その船に乗った。
リディアがロンドンに行くと分かってからどうしても、伯爵の存在が気になって仕方がないのだ。
そしてファーガスは、ロンドンに来たことに後悔をした。
夜遅くリディアは辻馬車に乗って、1人で出掛けたのだ。
行き先は、ファーガスには分かっていた。
伯爵からのキスなら、彼女は逃げないのだろうか?
それとも、それ以上のことを、2人は求めあうのだろうか……。
色々なことを考えているうちに、馬の蹄の音が聞こえてくる。
そこへタイミングよく、灰色の猫が現れる。ニコだ。
さっき、馬に乗っていた少年にも見覚えがある。
伯爵の従者のレイブンだ。
1人と1匹は、こんな夜遅い時間でも堂々と、玄関から入って行った。
そんな様子を、呆れたように見ていたが、口に手をおさえて、くしゃみをする。
夜は、寒い。
あの2人はまだ、来ないのか?
ファーガスはカールトン宅から離れた場所で、2人はいつ来るのか、いらいらしながら見ていた。
こんなことをしている間にも、2人の距離が縮まっていくのが、嫌でたまらない。
ファーガスが気づいた時には2人は、カールトン宅の前に立っていた。
外灯の明かりで、彼女の顔の表情が遠くからでも分かる。
自分には、見せたことのない表情……。
と同時に、嫉妬している自分に気がつく。
ロープで登っているときでさえも、2人はまるで、恋人同士に感じてしまう。
リディアと結婚するのは、自分なのに……。
しばらくしてから、レイブンとニコは窓から飛び降りてきて、すばやく馬に乗って行ってしまったが、まだあの部屋には、伯爵とリディアがいる。
3年ぶりに会った2人は、お互いの愛情を確認しているのだろうか?
ファーガスは寒さも忘れて、2人が部屋で何をしているのか?
そればかり、考えていた。
エドガーが馬に乗って去って行ったときには、外にはうっすらと太陽の明かりを照らし始めていた。
……これ以上、ここにはいたくはない!
ファーガスは朝一番の船に乗り、倒れ込むように、ベッドで眠り続けた。
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