★小説〜伯妖現代版〜★

□7〜想いを伝えたくて……(前編)〜
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自分でも分からなかった。
彼女が言ったひとことに、どうしてあそこまで腹が立ったのか。
女性なら誰でもいい。
そんな言葉、今までだって色々な女に言われてきたことだ。

「ペースが狂うな……」

そんな自分に少し苛立ちを覚えながらも、先に席に着いているポールとロタには笑顔で言葉を交わす。

「あれ、きみ達もう来てたんだ」
「さっき着いたばかりだよ。何回も来ているのにここは広いからこの場所にたどり着くまで時間がかかるな」

ポールはスケッチブックを片手にさっそく、絵を描き始めている。
自然に近いこの庭園はポールにとって、創作意欲をかきたてるものがあるのだろう。
エドガーの父はヨーロッパでいくつかの別荘を所有しているが、その中でもここはいちばん敷地が狭い。
だが、母との思い出がいっぱいつまったこの別荘は、彼のいちばんのお気に入りだ。
ジュースを飲んでいたロタが、エドガーの方をちらっと見てあれっと、声を出す。

「それよりもリディア遅いな……。エドガー、リディアの奴、何処に行ったんだ?」
「リディアまだ来ていないのか?」

エドガーの中に不安がよぎる。

「あんたと一緒にここまで来たとばかり思ったけど……まさか、リディアを置いてきぼりにしたのか」
「置いてきぼりだなんて。彼女が勝手にさっさと……」

エドガーはその先を言うのを、やめた。
結果的にエドガーはリディアを、置いてきぼりにしたのと同じだから。
ポールとロタはここへは何回か来たことがあるが、リディアは初めてだ。

「手分けして捜そう」
「そうだな。じゃああたしは……って、おいっ!エドガー」

ポールとロタは2人で相談をして決めていたが、エドガーは待ちきれずに、ロタの叫ぶ声を無視してそのまま走り去った。
あの時、彼女の後を追いかければよかった。
そんなに広い庭園ではないからすぐに見つかるはずなのに、どうしてこんなに自分は焦っているのだろうか。
空色が怪しくなってきたかと思ったら、頭にぽつんと水滴がはじいた。
どうやら雨が降ってきたみたいだ。

「ついてないな。こんな時に雨が降るなんて……」

空を見上げて呟く。
さいわい雨は小雨の状態だったので、雨宿りはせずそのままリディアを捜すことにした。





                  
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