★小説〜伯妖現代版〜★
□9〜彼女達の苦悩な日々(前編)〜
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「エドガー様、1週間のリディアさんの行動で気になることがございました」
「へ……え、何?」
エドガーはペンを持っている手を休めることなく、耳だけはレイヴンの話しをちゃんと聞いていた。
「はい。この2日前ですがロタさんとミュージカルを観た後、ロタさんとではなく何故か、キャスリーンさんと2人っきりで買い物に出掛けています」
それは確かに気にはなる。
だいたいリディアとキャスリーンとでは、2人共通のものがあるとは思えない。
また買い物先もエドガーにはどうしてと、思う場所だった。
オックスフォード・ストリートにあるおもちゃで有名なデパートだ。
キャスリーンが好んで行きそうな場所にはとても思えない。
彼女ならブランド品が集まる、ボンドストリートに行きそうなものだが。
それにしてもロタが一緒に行かなかったのは、どうしてだろうか。
「それともう1つ、これがいちばん重要になるかと思いますが……」
その重要という言葉を聞いて、書きものをしていたエドガーの手の動きが止まる。
「新学期からキャスリーンさんが、エドガー様と同じ学校に転入して来ることになっております」
キャスリーンが?
おそらく彼女の目的は1つ。
エドガーを手にいれることだ。
「なるほど、あのお嬢様もやるね」
別荘でエドガーにじらされたことがよほど、気に入らなかったのか。
あの時キャスリーンと2人っきりになったエドガーは結局、彼女の唇には触れなかった。
当然のことだ。
嫌いな女とキスするなんて。
エドガーにとっては苦痛だ。
肌に触れるだけでも、おぞましいと思っているぐらいなのに。
でも、我慢ができるのはそこまでだ。
だいたい女性に対してこんなことを思ったことがないが、キャスリーンだけはどうしても好きにはなれない。
「彼女は昔、僕のことを散々と馬鹿にしたからね。それ以上のことを味わってもらわないと」
「……はい」
レイヴンもそのことについては充分と
承知の上で、エドガーのために色々とやってくれている。
彼をこの家に連れて来たのはエドガーだが、レイヴンは父にも気に入られている。
頼み事をすれば完璧にこなし、見た目は全然そんな風には見えないが、武力に優れているためボディガードにもなる。
そんな彼だがぽつりと、エドガーに問うように口を開いた。
「……リディアさんを利用することになりますが、よろしいのですか?」
「あれっ?お前がそんなこと言うの、珍しいね」
彼の口からそんな言葉を耳にするとは。
意外だった。
「大丈夫。彼女の身に何かあればちゃんと守るよ」
その言葉にレイヴンは黙りこむ。
何も言わない彼にどうしたと聞く。
「いえ……。エドガー様の口から、そのような言葉聞くとは思いませんでしたので。意外でした」
さっきエドガーが思っていたのと同じことを、レイヴンも思っていたみたいだ。
そう思ったらつい、くすっと笑みがこぼれた。
「エドガー様……?」
「ああ、ごめん。ただの思い出し笑いだから気にしないでいいよ」
「はい」
こんな時でも馬鹿正直にきちんと返事をするレイヴンを見てさらに、笑いがこみあげてくる。
そんなエドガーを見たレイヴンは。
「ここにいない方がいいみたいなので、これで失礼致します」
頭を下げてそのまま部屋から出て行ってしまった。
彼が出て行くと休めていた手を再び動かす。
そしてさっきの自分の言葉でふっと、リディアの存在が頭をよぎる。
彼女を守るって、我ながらなんだかキザなこと言ってるな。
ペンを指でクルクル回しながらまた、書きものをする手の動きを止めてしまった。