★小説〜伯妖現代版〜★

□9〜彼女達の苦悩な日々(前編)〜
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「あら、凄い偶然ね。あなた達もオペラ座の怪人観に来ていたの?」

劇場から出て来て、ロタと今からオックスフオード・ストリートに行こうかと、話していた所だった。
ここでキャスリーンと再開するなんて思わなかった。
アメリカに住んでいると聞いたリディアは、あの後てっきり帰ったのかと思ったが。
夏休みの間はロンドンに滞在するのだろうか。

「ええ、そうなの。キャスリーンは誰と来たの?」
「実は……私1人で来たの」

思わずロタと顔を見合わせる。
しかしキャスリーンはわりと、あっけらかんとした感じで変わっているでしょと、笑顔で喋る。
まあ、こういう場所はなかなか1人で来るのは珍しいとは思うが、これだけ感動した作品を1人で味わうのも悪くはないかもしれない。
それに華やかなドレスに身を包んだ彼女ならむしろ、1人の方がかえって、いいかもしれない。
先程から道行く人々がこちらの方をちらちらと見ているのがわかる。
多分今のリディア達とキャスリーンの服装を、見比べているのかもしれない。
仕方がないが、やっぱりキャスリーンはどうみても人の目を引いてしまう。
だがリディアならこうはいかないだろう。
例え彼女と同じようなドレスを着たところで、同じようにはならないだろう。
この鉄錆色の髪では何を着ても無理だ。
そんなの、昔から分かっていたことだ。

「あたし達これからオックスフォードに行くから、じゃあ」

キャスリーンに対して素っ気ない態度をとるロタは、リディアの手を引いて歩きかけた。
そういえばロタは別荘にいたころから、彼女に対してはこんな感じで接していた。
どうしてだろうか。
リディアは聞こうと思ったが、なんとなく聞きそびれてしまった。

「あら、私も今からちょうど行こうと思っていた所よ。よかったら一緒に行かない?」

リディア達に対して親しみの笑顔を向け、話しかける。
相変わらずロタは不機嫌だが、別に断る理由もない。
それにキャスリーンはそんなに悪い性格でもない。

「いいわよ。歩いて行くけど、そんなにかかとの高いヒール履いて歩ける?」

するとキャスリーンはヒールを脱ぎ、手に持っていた紙袋の中からまた、別の靴を取り出した。

「これなら大丈夫でしょ」

ドレスにローファー靴とまた異様な組み合わせだが、キャスリーンは満足したように、さあ行きましょと言って歩き出す。
ところがロタ1人だけリディア達とは違う、別方向に向かって歩き出した。

「あれっ?ロタこっちよ」

リディアは声を掛けるが。

「悪いけどあたし、用事思い出したから帰るよ」

そう言って手を振り、すぐに人混みに紛れてしまった。
そしてキャスリーンがぽつりと、呟いた。

「私っ……て、もしかしてロタに嫌われているのかしら?だとしたら残念だわ。新学期からリディア達と同じ学校に転校することになったから、彼女とは仲良くしたいのに」
「キャスリーン、うちの学校に来るの!」 

思わずリディアは驚きの声をあげていた。

「父の仕事の都合でね。でも私ロンドンに友達なんていないから、リディアとロタが友達になってくれたらと思ったんだけど……」
「エドガーは?」

キャスリーンは少し、驚きの表情を浮かべた。
それを見たリディアは、言わなければよかったと思った。
もしかして、まずいことを聞いたかもしれない。

「……彼とは仕事上、父親同士が付き合いがあるだけで友達って、呼べるほどの仲じゃないの。それに別荘に招待してくれたのだって、友達があまりいない私に同情したんだと思うわ」

寂しげに下にうつむく彼女を見て、自分と少し似ているところがある。
リディアも友達が多い方ではない。
ロンドンに来た時だって、親友と呼べる人がなかなか出来なかった。
でもそんなリディアにも友達が出来た。
ロタがいたから、今の学校生活だって楽しく過ごすことができているのだ。

「大丈夫よキャスリーン。あたしはあなたのこと友達だと思っているわ。それにロタだってきっと、あなたのこと好きになるわ」

リディアは思わずキャスリーンの手を力強く握っていた。
彼女の顔に笑みがでる。
ほっとしたリディアは、キャスリーンの手を繋いだまま歩き始める。

「ねえ、行きたい所ある?」
「そう……ね、おもちゃをちょっと見たいかな」
「キャスリーンって、おもちゃ好きなの」
「変かしら?」
「ううん、そんなことないわよ」

キャスリーンとならいい友達になれそうだ。
リディアは心からそう思った。




                   
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