★小説〜伯妖現代版〜★
□10〜彼女達の苦悩な日々(後編)〜
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もうすぐ夕食の時間だが、最近ロタは、食堂に行く時間を最後の方にずらしている。
なるべく、みんなと顔をあわさないためだ。
さすがのロタも、ここまでみんなに無視され続けたら精神的にきつい。
弱気な自分の姿を見られたくないので、教室では逃げ出さないで堂々と、していたが。
もう頑張らなくていいんだよ。
つらくなったら、いつでもここにおいで。
ロタの頭の中ではふっと、そんな優しい言葉が聞こえてくる。
ロタの足が自然と、美術室へと向かった。
そして美術室に着くと、ドアは開けっぱなしになっていた。
ひょいっと、顔だけ覗くと横顔が見えた。
あ、いたいた。
そっと近付いて行くと。
「やあロタ、もうすぐ夕食の時間なのに、食堂に行かなくていいの?」
ぱっと、ロタの方を振り返りいつものように笑顔で、話かけてくれる。
「今度こそ気付かれないと思ったんだけどな……」
「ロタの足音って特徴あるからすぐにわかるよ」
ポールは厚みのある本をぱたんと閉じて、うーんとのびをする。
「ポールこそ、どうせここにずっといてたんだろ?お腹空かないのか」
「う……ん、そう言えば」
ロタに言われてやっと、気付いたみたいだ。
そんなポールを見ていると、ほっとする。
それに彼はちゃんと、ロタの足音も覚えていてくれた。
今時の男の子とはおよそ縁がない、油絵の具の匂いがする。
色気とは、ほど遠い。
しかし今日の彼からはまた、別の匂いがする。
「……くさい」
ロタは顔をしかめる。
ポールはえっと、表情を浮かべると、自分の服の匂いを嗅ぎだした。
「あ……っと、ごめん。実はさっきまで外でペンキ塗ってたから。今度他校と合同で親睦会をかねた、パーティーを開くことになってね。その時絵のお披露目もすることになったんだ。テーマはペンキなんだ」
こういう時のポールは本当に嬉しそうだ。
この表情が好き。
みんなから無視され続けても、ポールさえいれば、それで……、いいはずなの……に。
「……ロタ、泣きそうだよ」
ロタは慌てて指で、ごしごしと目をこする。
「ち……違うよ!あたしが泣くわけ……」
自分が人前で泣くなんて、ありえない。
泣いちゃいけない。
ここで泣けば、ポールに迷惑がかかる。
するとポールは美術室の中をうろうろと、しはじめた。
「え……と、ティッシュ、ティッシュ」
どうやら探し回ってくれてるみたいだ。
その姿が真剣なだけに、思わず口元が綻んだ。