★小説〜伯妖現代版〜★
□3〜彼の忘れたい過去の一部(後編)〜
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今日はなんだかいつもと様子が違った。
エドガーが学校から帰って来る時間には、キッチンにいてるはずの母が今日はいない。
よく見ると、キッチンの中は、お皿が数枚割れていた。
「母さん!」
まだ11歳の少年といえども、その光景を見ておかしいと思った。
エドガーは家中、母を探しまわった。
そして、かすかだが物音が聞こえた。
母の寝室からだ。
彼は慌てて寝室へと向かう。
そして一瞬、目の前の出来事がエドガーには信じられなかった。
「ちっ!もう坊やは帰ってきたのか。まあ、いいか」
母のベッドに、知らない男が2人。
母は布で口を塞がれていて声が出なかったが、エドガーの姿を見ると涙を流しはじめた。
服はビリビリに破れて、裸同然の格好で男2人から暴漢を受けていた。
「母さん!」
エドガーは母の所に行こうと走り出したが、また別の男が出てきて後ろから両手首を捕まれて、その場から動けなくなった。
「はっ……離せ、よ……」
ものすごい力で捕まれて、痛くて、血が止まりそうだ。
「後もう少しで終わりだから、そこから母親の裸でも見物しておきな」
男2人にどんなに頑張って抵抗しようとしても、女の力では勝てない。
それにまだ子供のエドガーも、大人の男3人倒すのは無理だ。
「ああ、いい女だ。後もうちょっとだけやりたいな」
母の体が、こんな男達に汚されるなんて……!
幼い少年には歯をくいしばってただ、その場にじっとしているしかなかった。
「もう時間がないから終わりにして!」
その声に男達の動きは止まり、ベッドからおりた。
エドガーは声が聞こえてきた方を見る。
ソファで足を組んで座り、口元に笑みを浮かべながら母を見ている。
たぶんさっきからずっと、その調子で眺めていたんだろう。
そしてソファから立ち上がり、カツカツと高いかかとのヒールを鳴らして、母のそばまでやって来た。
まだ起き上がれずにいる母のあごをぐいっとつかんで、自分の方に向けさせた。
「人の旦那に手を出したから罰が当たったのよ。さあ、今すぐにこの家から息子と出ていきなさい!」
女が男の方に目で合図すると、エドガーは母と一緒にそのまま外へつまみ出された。
「今度主人にまた近付いたら、今日みたいなことだけではすまないと、思ってちょうだいね」
そのまま玄関のドアの鍵が、閉まった。
エドガーはすぐに母の口を塞いでいた布をほどく。
やっとの思いで、母が口を開く。
「ごめんね、エドガー。あなたにこんなつらい目にあわせて……」
エドガーを力強く抱きしめ、彼の頬が母の涙によって濡れる。
「母さんこそ……大丈夫なの」
あんな目にあって大丈夫なわけがない。
いつも綺麗な母が、あの男達のせいで髪や服がめちゃくちゃになっている。
エドガーは自分の来ている制服のジャケットを母に被せる。
「ごめんね、本当にごめんね」
母の涙は、止まらない。
そんな母の涙を見てエドガーは、幼いながらに思った。
あの女、許せない!
今日の出来事は忘れない。
どこへ行くあてもなかったが、2人は長年住んだ家から離れて、そのまま歩き出した。