★過去のお礼小説〜★

□〜“現代版伯妖”〜{ミニ小説}
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∞〜過去のお礼小説〜∞
現代版伯妖から{ミニ小説}
[それはとても小さな……]





「待ち合わせの時間より早く着いちゃった……」

今日リディアは親友のロタと映画に行く約束をしていた。
ちょっと買い物をしたかったので、早めに家を出て買い物を済ませてからこの公園にやってきたのだが。
思ったより早く着いてしまった。
とりあえずベンチに座り、膝の上に置いた紙袋を見る。
気に入ってもらえると、いいんだけど。
紙袋とのにらめっこがはじまった。
こうなれば、まわりの騒音などまったく耳には入ってこない。
目の前に人が立ち止まっても気付かない。
そして肩をゆすぶられて、はっとする。

「まったく!さっきから何回も呼んでんのに全然、気付いてくれないんだな」
「ご……ごめんね、ロタ」

慌ててリディアはベンチから立ち上がった。
その時すぐ近くからわずかながら、声が聞こえたような気がしたが気のせいだろうか。

「まあ……、クリスマスも近いことだし仕方がないか」

ロタがにやにやしながら、紙袋に指を差す。

「べっ……別に、そんなことないもん」

ぱっと後ろに隠す。
すると突然、泣き声が聞こえてきたのでリディアはびっくりした。
その泣き声のする方に振り向くと、リディアの知らない間にベビーカーが置かれていた。

「いつから、あったの?」

中腰にかがみこんでリディアは、中を覗きこむ。

「なんだ、今頃気付いたのか。あたしはてっきりあんたが連れてきたのかと思ったけど」
「あたしじゃないわ。それよりもこの子のママは何処にいるの?」

辺りを見渡すが、母親らしい姿が見あたらない。
小さな両手をぎゅと握りしめて、しきりに泣き叫ぶ姿を見て2人は困りはてた。
リディアはなんとかあやそうと、胸のあたりをとんとんと軽く叩いてみるが、泣き止む様子がない。

「……おい、もしかしてこの赤ちゃんて、母親に見捨てられたんじゃないのか」
「何言ってんのよ。いくら何でも……」

さっと目の前に走り書きの文字の紙を見せられた。

ー私の代わりにこの子を幸せにして下さいー

今、リディアの頭はパニックだ。
泣いている赤ん坊をどうすることもできないし。
そもそもどうして、リディアのそばに赤ん坊を置いていったのかも分からない。
どうしてあたしなの?

「ど、どうしよう……ロタ」
「どうしようっ……て、聞かれても困るよ」

今の2人は、この赤ん坊にかなり振り回されている。
長時間泣き続けていると、さすがに人の目も気になる。
それでこの2人のとった行動は。

「とにかく公園から出よう!」

ロタがベビーカーを急いで押し始めた。
リディアも慌ててついて行く。
2人は逃げるように、この公園から去った。


                   
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「おーい、ミルクはまだかよ」
「これでも急いでるんだから待って」

公園からリディアの家が一番近かったため、結局赤ん坊はここへ連れてきた。
ベビーカーには、赤ちゃんに必要な物が袋に入れてあったのでとりあえず、ミルクを飲ますことにした。
リビングではロタが馴れないながら、泣いている赤ん坊を抱っこして、ウロウロ歩き回っている。
キッチンではリディアは、パソコンで検索した画面をみながらミルクを冷ましている。
そして人肌温度に冷ましたミルクを急いで持って行く。

「はあい、お待たせ。ミルク出来たわよ」
「……リディア、寝たよ」
「えっ?」

あんなに大泣きしていたのに泣き疲れたのだろうか。
今は口をもぐもぐ動かしながら寝ている。
小さな天使みたいだ。
その寝顔に2人とも、顔を見合わせて微笑む。
ずっと眺めていたいが、ロタの方は疲れたらしく。

「とにかくソファにおろすよ。腕が痛い……」

ソファにおろした途端、再び鳴き始めた。
ロタはもう無理と言って、首を横に振った。
となれば、リディアがやるしかない。
恐る恐る赤ん坊の両脇に手をいれ、ミルクを飲ませるため横向きに抱っこをする。
初めての抱っこにかなりの緊張気味だ。
そしてロタが素早く、ほ乳瓶の乳首を赤ん坊の口に近付ける。
小さな口は乳首に吸い付き、凄い勢いで飲み始めた。

「あっ……!飲んだ」

よっぽどお腹がすいていたのだろう。
休憩もなしに、ずっと吸い付いたままだ。
突然、ロタのカバンから携帯の着信音が鳴る。
赤ん坊の方はその音には気にせず、飲み続けている。

「ちょっと電話に出るから」

そう言って、リディアにほ乳瓶を渡すと、少し離れた所で携帯に出る。
携帯に出た途端に彼女の表情が変わり、慌ててリディアの所にやって来て両手を合わせて謝る。

「ごめん!すっかり忘れてたけど、前にも言ったとおり学校のクリスマスパーティーの準備に行かないといけないんだ」

そう言えばリディアも忘れていた。
今日は夕方までならと言う約束で映画に付き合ってもらうはずだった。
ロタはクリスマスの実行委員に選ばれ、彼女を中心にこのイベントは勧められているから行かなければ皆が、困るだろう。

「ロタ、あたしなら大丈夫よ。ほらこの子だって今は静かだし」

多分、ミルクを飲んだばかりだから静かなだけかもしれないが。
今はソファに寝かせてもご機嫌だ。

「ほんと、ごめん!なるべく早く戻って来るから」
「いってらっしゃい」

ロタに心配をかけさせないためにも、なるべく笑顔で手を振ったが。
玄関のドアが閉まる音が聞こえると、急に不安になってきた。
どうしよう……。
2人っきりになってしまった。
とにかく次どうしたらいいか調べよう。
リディアがパソコンの画面を見ていると、今度は家の電話が鳴った。
ソファの方をちらっと見ると、手に握ったおもちゃで遊んでいるみたいだ。
赤ん坊の方を気にしながら電話に出る。

「リディア、どうしたの?携帯に掛けても出てくれないから」

リディアは、あっと声を出す。
夕方から逢う約束をしていたことをすっかり忘れていた。
受話器の向こうからは馴染みの声が聞こえてきたせいか。
リディアの瞳が潤んでしまった。




                  
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