★過去のお礼小説〜★

□〜“今回はケリーが主役”〜(ミニ小説)
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∞〜過去のお礼文〜∞
〜今回はケリーが主役〜(ミニ小説)
{待女のお仕事〜その1〜}


ケリーはここでの仕事がとても気に入っていた。
この屋敷の奥方はとてもいい人で、奥方付きの待女をしているケリーにとっては本当にありがたいことだ。
だが、そんなケリーにも最近頭の痛い出来事が続く。

「ケリーさん、あたしもう……耐えられそうにありませんので、辞めます」
「そんなこと言わないで、ねっ。もう少し頑張ってみてよ。あたしも力になるから」
「無理です!毎日毎日あんな怖い顔で睨まれて、神経がおかしくなります」

これで、今月に入ってこんな苦情を持ちかけられたのは5人目だ。
思わずため息をついてしまいたくなる。
そろそろ、執事のトムキンスに相談した方がいいだろうか。
そう考えていたところ。
目の前にすっと、今まで話題になっていた人物が通りかかった。
いつも気配がないため、目の前を通るまで分からなかった。
先程話しをしていた少女の顔が、ひきつっていた。
ケリー自身も顔がひきつっているかもしれないが、落ち着かせるためになんとか、笑顔をみせた。

「だ、大丈夫よ。話しまで聞かれていないと思うから。それよりも、あたしが話しをつけてくるから絶対に辞めちゃ駄目よ。いいわね」

その言葉に納得してくれたのか。
ケリーに笑顔をみせてくれた。

「分かりました。レイヴンさんと仲のいいケリーさんなら、なんとかしてくれると思っていますから。今日思いきって話してみてよかった」

少しは心の負担が軽くなったみたいで、軽い足取りで去って行った。
はあ……、どうしよう。
話し合いで解決できる人なら苦労はしない。
それにケリーは別にレイヴンと、仲がいいわけではない。
彼と一緒にいる時間が長いからそう、思われるのだろうか。
解決策が見つからないまま、重い足取りで歩き出した。
心の負担がいっそう、重くのしかかる。




*   *     *    *    *     *    *     *     *    *    *   *    *     *    *    *    *    *



あいかわず無駄のない動きでテキパキと、ティータイムの準備をすすめていく彼の後ろ姿を見て、ケリーはいつもながら感心をする。
今は伯爵夫妻のティータイムの時間。
いつもの慣れた手つきでポットからティーカップに紅茶を淹れようとした時、彼の手が止まった。

「んっ?レイヴンどうした?」

この家の主人がこれがまた、いつものように奥方にべったりとひっついて、離れない。

「エドガー、……こんなにいつもひっつかれたら、ケーキが食べにくいわ」

確かにその通りだ。
それはケリーも、いつも思っていることだ。

「大丈夫だよ、リディア」

そう言ってにっこりと笑っているだけだ。
どうやら離れる気はないらしい。
何が大丈夫なのか分からないが、リディアの方もあきらめたらしく、こうなればもう、エドガーのやりたい放題に
なっている。
怒らないところをみれば、そこまで嫌ではないということだろう。
レイヴンの方はといえば、そんな2人のタイミングをみはからって、口を開く。

「申し訳ございません。すぐにポットを新しいものと取りかえて参りますので」

そして素早く、部屋から出ていった。
まさかとは思い、ケリーは、レイヴンの後を追った。
そして彼が向かった場所は、先程ケリーの所に相談にきた、少女のいる仕事場だった。
その少女はレイヴンの存在に気が付き、顔色がさっと変わる。

「このポットの蓋を洗ったのはあなたですか?」

怖い口調でまた言うものだからすっかり怯えてしまい、口をぱくばくさせていた。
さすがのケリーもその様子を見てあまりにも可哀想になったので。

「レイヴンさん。そんな怖い顔で睨まれたら誰だって、怖がりますわ。それにこのポットの蓋のどこが汚れているのです?」
「ここです」

彼の指を指す方を見てみるが。

「……あたしには、分かりませんが……」
「ケリーさん、目が悪いのですか」

ひとことが多いのよ!
その言葉に頭にきたケリーは、さらに顔を近付けてよく見ると。

「まさか……とは、思いますが……、これですか?」
「そうです」

あまりにもきっぱりと言い切るので、ケリーは呆れてしまった。
汚れといっても、本当に顔ギリギリまで近付けないと分からないぐらいで、誰が見ても同じことを言うだろう。
そして彼はさらに、少女を追い詰める。

「こんな汚れのついたポットで、夫妻に紅茶を飲ませるつもりだったのですか」

少女の方はもう、半泣き状態だ。
こんなにしつこく言われたら、確かに神経がおかしくなっても不思議ではない。
そして少女からは、助けを求める目で見られ、ケリーは思わず言ってしまった。

「そのポットを汚したのは、……あ、あたしです!」



                                                     
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